電子申告について







2009年(平成21年)4月UP


e-TAXについて
平成6年に基本計画が策定され、平成12年の森総理大臣(当時)の「IT国家戦略」構想も後押しして平成16年から全国で運用が開始された国税庁電子申告・納税システムの通称です。
地方税の電子申告システムである
eL-TAX(エルタックス)と共に国税庁が「平成22年度までに50%以上」という高い目標を設定して推進をし、日本税理士連合会(通称日税連)も全面的に国税庁の方針をバックアップしていたシステムの事です。

利用者UPのための異常な普及活動
国税庁の目標設定を受け、各国税局・税務署ではe-TAX普及率を上げるためには有無を言わせないといった異常な普及活動を行っていました。
利用件数をUPさせるために税務職員が税務署内のパソコンを使い、税務署に申告に訪れた納税者のデータを入力したことで「電子申告件数の水増し」と報じられた(2008年7月の朝日新聞)り、また税務署員達が本業そっちのけでセールスマンの様に電子申告利用促進のPRに回るという体制は正に異常な状態と言えるでしょう。
もちろん国税庁と一体になって普及に努める日税連や青色申告会・法人会なども同様です。青色申告会では、会員から預かった手書き申告書を会員に無断で電子申告入力・送信することで利用件数の水増しを行っていた事も報道されております。
現在でもこの状況は続いている様です。

税務署の内部では?
税務署内部でも電子申告は決して評判の良いものではないようです。
税務署内にある労働組合機関誌等から税務署員の本音を色々と拝見させてもらっていますが、電子申告を利用して提出された還付申告書については、非利用者との差別化を目的として、最優先で三週間以内には還付させるといった方針がかなりの現場の事務の流れを乱しているらしく、職員の労働は決して軽減されていない様子です。
また税務署の統括官(係長職)以上の役職に就く職員はe-TAX普及に向けたセールスのノルマがあったらしく、これも本音ではかなり大変だったらしいです。

e-TAXの不安は?
ではe-TAXというものは本当に便利なものでしょうか。
基本的には便利なものでしょう。
将来的には間違いなく紙の申告書に取って代わる事でしょうが、現状ではまだまだ不安を残しておりますし不便も多いシステムであり、今後もかなりの改善が必要だと考えております。

その第一はセキュリティ問題
第一はセキュリティ上の問題です。
e-TAXはインターネット回線を使ってデータを送信するものですから、謂わば全世界のパソコンと繋がっている状態ですし、送信するデータは会社や個人の所得や財産といった、何と言っても一番機密性が求められるデータです。
ネット「回線」というのは1本の独立した線がある訳ではなく、1本の光ケーブルや電話線の中を色々なデータが絶えず飛び交っております。
つまりe-TAX送信を行うという事は、利用者と税務署の間が1本の独立した線で結ばれる訳ではなく、回線を共有する色々なデータが飛び交う間を縫ってデータを送っているものです。
よっていつどこでデータのセキュリティのほころびが出るか分からない状態だと言えます。
プロのハッカーのレベルはかなりのものらしく、その気になったら個人認証やパスワード程度は簡単に破られる可能性があります。
データは一応SSL3.0による暗号化を行っていますが、それでも決して安心はできません。
またコンピュータウィルスの被害も想定しなくてはなりません。
インターネットは自己責任的な部分がまだ数多い世界です。
電子申告データが漏洩した場合のリスクはクレジット番号等の個人情報が漏れた場合の何倍もあるであろう事を考えますと、慎重にも慎重に考える必要があると思っております。

利便性も現状ではまだまだ疑問視
第二は利便さの問題です。
電子申告を使えば自宅に居ながらいつでも申告・提出が可能だというのは確かに国税庁が言う通りです。
しかし申告書だけは電子送信ができても、申告書に添付すべき書類は後で郵送する必要があり、決して国税庁の言う様なパソコン送信だけで事が足りるものではありません。
所得税申告で医療費控除をする際に添付義務がある医療費の領収書の様に、電子申告を条件に一部添付義務が外されたものもありますが、でもその代わりに自己責任での3年間の保存保管の義務が求められますし、そう便利とは思えません。

回線トラブルやパンクの場合は?
回線トラブルによる送信リスクも考える必要があります。
ネットの世界では時々回線が途切れたりする事がよくありますし一つの回線にアクセスが集中した場合にはパンクする事もあります。
仮に所得税申告期限である3月15日に申告の送信を行ったものの、送信エラー等の回線トラブルが起きてしまい、税務署が受信したのが3月16日になってしまった場合は期限後申告となるのかどうか。
また申告期限日に利用者からのアクセスが集中したことにより回線がパンクして送信不能になった場合はどうなるのか等々、まだまだ解決しなければならない事があります。

郵送により申告を送付する場合は発信主義の考え方が採られており(国税通則法第22条に規定)、所得税確定申告の場合は3月15日にポストに投函していれば16日以降に税務署に届いても期限内申告とみなされますが、宅配便等を使った場合には到達主義の考え方が採られ、現実に税務署に到着した日が申告書の提出日となります。電子申告についても発信主義なのか到達主義なのか明確に法の規定を整備する必要があると考えます。送信時点で到達したものとみなす新たな規定が必要ではないでしょうか。

面倒な手続きに見合うだけのメリット?
開始時に必要な各種手続の面倒さも普及にストップをかけています。
電子証明書の取得には手数と費用も必要ですし、カードリーダーの購入・開始届の提出・ソフトのダウンロード・初期登録と、実際に申告入力を行う前に色々と面倒な手順が待っています。
e-TAXソフトも初期時の酷いものとはかなり改善されておりますが、それでもまだまだ使いづらい部分も数多い様です。
この面倒さに余りある便利さがあれば放っておいても普及していくのでしょうが、これだけ国税局・税務署や日税連等が普及活動を行っているにもかかわらず予定より普及ペースが遅いという事は、まだまだ国民はメリットを感じていないのだと思います。


ちょっと疑問・・・・
国税庁は電子申告利用者に税額控除の規定まで設けて利用促進を図っております。
苦しい国の財政状況の中、電子申告制度は果たして税額控除という思い切った臨時法を制定してまで普及を行わなければならないほどの重要制度なのかどうかという事に疑問を感じている国民もかなり多くいると聞いています。

思い起こせば・・・
以前にもよく似た事がありました。
思い起こせば、昭和50年前後だったと記憶していますが、国税庁が青色申告の普及拡大を行っていた時期がありました。
あの時も今回と同じ様に、税務職員があたかもセールスマンの様にノルマを持たされて普及活動を行っていましたし、青色申告に応じない納税者には見せしめとも思われる税務調査も行われ、ちょうど今の電子申告制度普及の光景と重なって仕方がありません。
あの青色申告の普及が今にして思うと平成元年の消費税法導入に結びついていった事を考えますと、今回の国税庁の異常なまでの電子申告普及方針も、将来の課税強化に向けての何らかの布石である事は間違いがありません。







国税庁に取って電子申告導入のメリットは?
国税庁として、税額控除の出費をしても充分に余りあるメリットとはいったい何なのでしょうか考えてみましょう。

結局は税務調査件数を増やすための策
ペーパーレス化して事務効率をUPさせるというのは誰でも思いつきます。過去の国税庁の方針を見ていても、税務署員には税務調査以外の業務は極力外し、全税務職員を税務調査に従事させ、調査件数や調査率をUPさせたいという本音が明らかです。

事実、昭和50年前後には「近づきやすい税務署」などという柔らかい標語を使って納税者への広報指導を重視していた頃もありましたが、今の税務署には当時の面影は全く無く、ただひたすら高圧的な「御上」になりつつあるのが気になります。

税務署の基本方針は調査・指導・相談・広報の4本柱と言われていましたが、いつのまにか調査以外の方針が消えてしまい、調査と徴収の二本柱に向かおうとしております。

電子申告導入が税務署員達の事務軽減には決して結びついていない事は現状を見てもよく分かります。軽減どころか逆に事務負担が増していると本音を漏らす税務署員も何人も知っています。

要するに、国税庁に取って電子申告とは税務調査件数を大幅に増やすための策に過ぎず、電子化による省力部分は結局は調査を行わない内部事務人員の削減、そして納税者サービスの低下に結びつくものと考えております。

税務調査は不必要なものではありません。申告納税制度の現在の法制度の中では税務調査を否定するものではありませんが、でも本来納税者サービスには欠かせない内部事務担当の人員まで調査業務に駆り出そうというための策が電子申告制度導入である事を考えた場合、今のこの国税庁の方針には疑問を感じているところです。

日税連は何故電子申告制度普及に協力?
日本税理士連合会(日税連)は何故か国税庁の方針には全く異議を唱えず電子申告の普及に全面的に協力する姿勢を取っています。電子申告制度導入が税務調査件数を増やすためのものである事はほとんどの税理士は当然に周知しているはずの事なのですが、その税理士の団体である日税連が全面的に国税庁の方針に追従している事は理解ができません。

税理士に取って税務調査件数が増加する事は決して良い事ではありません。調査対応によって圧迫される業務の問題もありますが、今の高圧的な税務調査が増える事による納税者の権利剥奪の怖れを強く感じます。

税理士は税理士法により、国税庁側でもなく納税者側でもない独立した公平な立場を求められています。しかし今の日税連の立場は到底独立公平な立場だとはとても思えません。完全に国税庁と一心同体化しております。

日税連は電子申告を推進する理由を「税理士が積極的に取り組む事により国の施策である電子政府実現に大きく貢献できるため」として、「電子政府の実現により納税者の利便性が向上」と断定しておりますが、この方針にかなりの数の税理士が異議を唱えている様です。





当事務所の基本スタンス
当事務所では電子申告は決して否定はしておりません。元々当事務所ではホームページ開設もLAN化もネットバンキング導入も他の事務所に先駆けて行っており、電子化についてはかなり先進的に進んでいた事務所でしたが、でも電子申告についてだけはやや慎重な姿勢を採っておりました。

その理由はやはりセキュリティ問題が大きく、僅かな利便さと引き替えにするには、あまりにもリスクの方が大きい事に二の足を踏んでいるのが現状です。自分個人のデータとは違い、大事なお客様のデータですから、少しでも危険だと思われる場所にさらす事はできません。今のネット環境はまだまだリスキーだと言えるでしょう。

でも電子化は時代の流れである事は間違いがありません。当事務所でもいずれは電子化の波に乗らざるを得ないとは思いますが、今のところは利便さよりもリスクが大きいという事です。

税理士内部でも「電子申告を行わない税理士は時代の波に乗り遅れる」とか「電子申告のできない税理士は業務が無くなる」などといった根拠の無い話が飛び交っております。まあ国税庁や日税連が利用率UPを目指すあまり、その過程で出てきたものだとは思いますが、
「御上」の決めた方針に従わない者はけしからん、といった危険な思想が見え隠れしている様な気がします。

大事なのは国税庁の方針云々ではなく、納税者や税理士にどんなメリットがあってどんなデメリットがあるのかをよく検証する事
ではないでしょうか。

税理士が電子申告の普及に協力するのは、利便さ云々よりも「国税庁の方針だから」「税務署に頼まれたから」、或いは「立場上断れない」といった理由がほとんどの様です。当事務所では現在では「様子見」の段階だと思っております。利便性が増しさえすれば電子申告などは自然に普及するでしょうし、それを数字目標があるからと、税額控除といった甘い汁まで付けて無理に押しつけようとしている今の普及策に薄気味悪ささえ感じております。

本当の電子申告導入の狙いは?
現在の国の破綻寸前の財政状況を考えると、出てくる結論は一つしかないと思っております。すなわちそれはサラリーマンの年末調整制度の廃止と給与所得控除の撤廃でしょう。

サラリーマンの給与所得控除が撤廃されますと、アメリカなどと同様に今まで年末調整だけで済んでいた全サラリーマンが自分で経費を計算して申告を行わなくてはならなくなります。つまり申告すべき納税者数が一気に約4000万人以上も増加する事となり、今の税務署員数ではとても対応できない事となり、そのためにも電子申告制度は国税庁に取って絶対に欠くことの出来ないものとなります。

なりふり構わぬ青色申告制度普及策が数年後の消費税導入の伏線だった事は先にも書いた通り今ではハッキリしている事です。今回の電子申告制度も将来の国税庁の政策の何らかの伏線である事は、今の異常なまでの普及方針を見る限り間違いがありません。それが上に書いた様な給与所得控除撤廃なのかどうかは不明ですが、異常なほどの申告件数増加に備えたものであることだけは間違いがありません。



 【平成25年追記】 

当事務所では現在ではほぼ100%を電子申告で処理しております。
確かにセキュリティ的に不安の多い電子申告ですが、OSやウィルス対策ソフトを絶えず最新のものを使用する様にして、とにかく事務所として可能な限り、現時点での万全の体制を採っているつもりでおります。
情報流出のニュースは今も頻繁に新聞紙上を賑わせておりますしその度に不安が増すばかりなのですが、でも省力化や利便性は間違いなく電子申告に軍配が上がることから、事務所としても否応なしにこの選択をしたところです。

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