相続税って資産家とかお金持ちにしか縁の無い税金だって思っていませんか。 確かに相続税の申告が必要な方は、亡くなった方全体の4%程度(平成24年分実績で4.2%)に過ぎず、そんな意味では確かに庶民からは遠い税金であったことは間違いがないようです。 しかし平成27年からは相続税法が大きく見直しをされ、相続税の申告義務のある人が大幅に増える事となります。 つまり今までは縁の薄かった相続税という税金が一気に身近になったという事になります。 相続税という税金は事前対策により大幅に軽減できる場合があります。つまり言い換えてみれば何の対策も取らなかった場合に無駄な税金を支払わなければならない場合もあるという事です。 |
相続税とは、文字通り亡くなった方の財産にかかる税金です。 |
被相続人=亡くなった方 相続人=亡くなった方の財産(債務)を引き継ぐ(相続する)人 |
相続税とは、被相続人が亡くなった事を原因として、被相続人に帰属していた財産や債務が相続人に帰属が移る場合、その財産や債務を課税標準として課税されるもので、その財産を取得した者に納税義務が発生するという取得者課税方式による財産税です。 つまり、例え民法上の相続人であっても、財産を相続しなかったら納税義務はありませんし、仮に財産を相続しても債務の方が多額な場合にも納税義務は発生しません。もちろん相続した財産があまり多額なものではなく、下に記載する基礎控除に満たない場合にも申告義務はありません。 相続人が財産を相続し、マイナスの相続財産である債務を差し引いた残額がプラスの場合、そしてこのプラスの金額が基礎控除等の額を超えた場合に相続税の納税義務が発生する事となります。 |
基礎控除とは? |
3,000万円+(法定相続人の数×600万円) の金額となります(平成27年以降) 平成26年までは基礎控除は 5,000万円+(法定相続人の数×1,000万円) となっていました。 つまり大幅に基礎控除の額が切り下げられた事で相続税の納税義務者が一気に増加する事となった訳です。 |
法定相続人とは? |
亡くなった方の配偶者とお子様というのが一般的です。 お子様が居ない場合は亡くなった方のご両親、そしてご両親も既に亡くなっていた場合にはご兄弟姉妹が法定相続人となります。 お子様が先にお亡くなりになっていた場合には、そのお子様の子供(孫)が法定相続人となります。 |
相続税の税額は? |
法人税も所得税も、ほとんどの税金は原則的に課税標準に税率を乗じて税額を算出する訳ですが、相続税というのは税額算出方法がちょっと特殊です。 極めて単純に書けば次の様になります。 まず第一は(課税標準の算定) 亡くなった方(被相続人)の財産の総額から債務を引いた額を算出。 預貯金などとは違い、不動産や書画骨董・有価証券等は評価を行って亡くなった日時点での金銭的価値を算定する必要があります。 このやり方は国税庁の財産評価通達等により行うので具体的な計算等は税理士さんなどの専門家に聞いていただいた方が良いでしょう。 この金額が相続税の計算の基となる遺産総額となります そして次は(税額の総額を算定) この相続財産を、法定相続人達が法定相続割合通りに分けたと仮定して各法定相続人毎の相続税を計算いたします。つまり各法定相続人の法定分類財産の額に相続税の税率を乗ずる訳です。 この計算により算出された各相続人の相続税の総額が納める額となります。 最後に(誰が税金を支払うかを算定) 実際には相続人達は法定相続割合ではなく、話し合って決めるか遺言や相続調停等で相続財産を分ける事となります。よって最後には既に総額が計算された相続税の総額を実際の遺産分割割合で分けて納税する事となります。 申告納税期限は相続開始日(被相続人がお亡くなりになった日)から10ヶ月後までとなります。 |
相続税の速算表 | ||
課税標準 (遺産取得額) |
税率(%) | 控除額 |
1000万円以下 | 10 | - |
3000万円以下 | 15 | 50万円 |
5000万円以下 | 20 | 200万円 |
1億円以下 | 30 | 700万円 |
2億円以下 | 40 | 1700万円 |
3億円以下 | 45 | 2700万円 |
6億円以下 | 50 | 4200万円 |
6億円超 | 55 | 7200万円 |
平成27年1月以降の適用税率です
(最高税率も50%から55%にアップしました)
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【更に注意が必要です】 |
過去に贈与済みの財産にも要注意 |
過去の贈与財産も相続財産に加算されます。相続時精算課税を使って過去に贈与した財産は全て相続財産に含めて再計算する必要がありますし、また相続発生時(亡くなった日)から三年以内に贈与した財産も全て相続財産として計算する必要があります。 |
金融資産等は名義ではなく実質で判断します |
預金等は例え相続人の名義となっていても、実際には被相続人の財産だとして相続税の対象となる場合が多くあります。具体的にはその預金の通帳を被相続人が保管し、更に印鑑も被相続人の管理にあった場合には、名義が相続人であっても実際には被相続人の所有資産とみなされます。 わざわざお子様やお孫さん名義でコツコツ積み立てていた様な預貯金はまず名義無関係で相続財産になるものとお考えください。 通帳と印鑑を全てお子様やお孫さんに渡し、そしてお子様やお孫さんが実際にその預金の一部を使っていた事実があればまず大丈夫です。 |
相続トラブルの主なものはやはり遺産分割に関するものでしょう。仲の良かった家族が遺産の分割で揉めてしまい、以降は口も聞かなくなってお互いの付き合いも行き来も無くなってしまうといった事は決して珍しくはありません。 遺産分割がスムーズに終わったと思っても、今度は予想よりも多額となった相続税の支払いが新たな次のトラブルとなります。相続税の支払いのためにせっかく取得した不動産を手放したり、また延納制度で20年に渡って分割で延々と税金の支払を続ける方も大勢いらっしゃいます。 相続税の申告の必要がある(と思われる)方は、遺族の方が後々この様なトラブルに見舞われる事が無い様、生前から色々な対策を考えてご準備しておく必要があると思います。 遺産分割のトラブルはあくまで家族内の問題ですので、ここでは相続税に関して予想されるトラブルについて書かせていただきます。 |
相続税の対策は 1 課税対象となる相続財産を如何に減らすか 2 相続税の納税資金を如何に確保するか の、大きく分けて2つに分けられます |
相続財産を如何に減らすか |
地味ですが有効です 計画的な生前贈与に勝るものはありません。極めて地味ではありますが、この方法が一番確実でノーリスクなやり方です。 同一人に対して年間110万円を超える贈与は贈与税の対象となり贈与税の申告も必要ですが、でも相続税の超過累進税率を考えると、例え僅かづつでも計画的に贈与を行っていく事は間違いなく将来の相続税の軽減の対策となります。また敢えて110万円を超える贈与を行って贈与税を支払って税務署に贈与税の申告歴を残す事も、後々の相続発生時の贈与の何よりの証拠となりますので有効です。 実際に相続が発生してしまった時には、その発生日から3年間遡ってその間の贈与を相続財産として加算する事となりますが、3年以上前の贈与は再計算される事はありません。 僅か110万円づつというのは、対策の手段としては実にスローで地味なのですが、でも贈与をする相手(受贈者)が3人いれば年間330万円づつは無税で贈与できる訳ですし、毎年繰り返し贈与し続ける事で、かなり効果のある相続対策となります。また法定相続人ではないお孫さんやお嫁さん・ご兄弟といった方々にも贈与は可能です。 数十億といった遺産をお持ちの方はともかく、少なくとも平成26年までは相続税の心配も不要で平成27年からの相続税法改正で相続税という税金が一気に身近になった方々には一番有効な対策だと思われます。 【贈与の際の注意点】 税務署は実際に相続が発生した場合、生前の贈与が単なる名目だけのものかどうかを必ずチェックしてきます。つまり過去に行われた贈与を何とかして相続税の課税資産にしようと無理な判断をしてくる事があります。 そのためには贈与を行うには必ず贈与契約書を締結して法的にちゃんと贈与が成立している事の証拠書類を残しておく必要があります。 上に書いた様にわざわざ110万円を超える贈与を行って贈与税の申告を残すのも後々の贈与の証明のためです。 現金を贈与する場合も必ず証拠が残る様に銀行経由で振込する様にした方が良いでしょう。 贈与税は平成27年からはやや軽減されております |
銀行や不動産会社からのお勧めプランは マイナス財産である債務を作るために、銀行や不動産会社などは借金をしてアパートを建てるといったプランを提案してくることがあります。 確かに借金をしてアパートを建てた場合には、借金の額はそのままマイナス財産となりますし、建てた建物は建設価格がそのまま評価額となる訳ではなく、また貸家の評価減もありますので、確かに相続対策としては間違っていませんし間違いなく相続税の税額の減少にはなります。 でもこれは対策を取ってあまり間を置かず相続が発生した場合には有効となりますが、おめでたい事に予想よりも被相続人が長生きされた場合には逆にリスクとなる危険性を持っています。 つまり借金は月々の返済で減少していきますし、アパートの方は建物が古くなるのに連れて入居者が減ったりして家賃収入が減少する事となり、相続税の税額云々よりも相続人の今後の生活設計に狂いが出てしまう事となります。 人口が徐々に減少しつつある現在、間違いなく貸家の需要も減少してきますから、単に相続税を減少させる目的のみでこの様な不動産の取得を行う事は安易に行うべきではありません。仮に借金して不動産を取得するのであれば、相続税の対策目的としてではなく、将来的な生活設計の一つとしてお考えになられるべきでしょう。 |
会社の経営者の方は持株の対策も必要 同族会社の経営者の方は、経営の移譲と共に持株の移譲を併行して考えていく必要があります。 会社の持株は会社の業績によってはかなり高額な財産として評価される可能性もあります。でも他の資産とは違って簡単に第三者に売却して納税資金とする事もできませんし、下手な事を行ってせっかくの会社が他人の手に渡ってしまう可能性も否定できません。 会社の将来を任す事のできる方に計画的に譲渡していくか贈与する等の対策を日常的に考えていく必要があります。 また業績があまり芳しくない会社の場合、経営者が会社に注ぎ込んだ資金は会社に対する貸付金として相続税の対象資産となる可能性もありますので注意が必要です。 |
土地の評価は 土地は更地の状態が一番評価が高い状態となっている反面、譲渡等の処分も一番やりやすい状態だとも言えます。つまり相続税の納税の際に譲渡して現金化するか、或いは物納のために、敢えて更地の状態の土地を利用しないでそのままにしている方もいらっしゃいます。 もしその予定が無いのでしたら、土地の評価を下げる手段も相続税対策として考えていく必要があります。無利用な土地は収益を生む訳ではなく、逆に固定資産税等の負担を求めるだけのマイナス財産となっています。生前中の収益を生みながら将来的な相続対策にもなる策を考えるべきです。 もし賃貸するのでしたら更地だけを貸して第三者に建物を建ててもらうというのが借地権の評価減を考えますと一番の相続対策となります。自分で建物を建てて貸すだけだと貸家建付地としての僅かな評価減しかありませんから、土地の評価を下げるためには借地権を使った評価減が一番でしょう。 もし第三者に貸す事に抵抗があるのでしたら、自分で会社を設立してその会社に建物を建ててもらう事も考える必要があります。自分の設立した会社であっても法律上は全くの別人格となりますので第三者扱いとなります。但し怖~い借地権課税のリスクもありますから、必ず詳しい方に相談なさった方が良いですね。 土地を月極駐車場などで貸す事は相続税の対策としてはほとんど効果はなく月々の駐車料金収入以上のメリットはありません。 土地等の不動産は、現金や預金の様に計画的に少しづつ相続人に贈与していくといったやり方が困難な財産です。分筆したり登記したりと、費用ばかりかかって面倒なだけです。よって特に使っていない不動産はいっそのこと譲渡して現金化してしまい、この現金等を計画的に相続人に贈与するといったやり方も考える必要があるでしょう。 |
相続税の納税資金の確保 |
相続財産の評価を下げて少しでも相続税の納税額を少なくしようという策は確かに相続対策のメインなのですが、でも最後にはやはり如何にスムーズに納税を済ませて遺族に迷惑をかけないか、という事も相続対策のプラン一つとして考えていく必要があります。 具体的には、安易に現金化が難しい不動産等を相続させる相続人には必ず納税資金に充てる事ができる現金や預金等を一緒にセットとする遺言を残す等々で、最初から相続税の納税資金に困る事が無い様に考えておくといった策です。 生命保険を使ったプランはかなりお勧めです。生命保険は先に書いた様に本来の法律上の相続財産ではなく、あくまで相続税の申告の計算の際だけ相続財産に含めるといった「みなし相続財産」ですので、事前に受取人を自由に決めておく事も可能です。相続が発生した際に相続人に対して相続税額に見合う程度の保険金が入る様に事前に準備しておく事は財産をお持ちの方の遺族に対する義務だと思われます。 生命保険は相続税の納税資金だけではなく相続トラブルの回避としても有効です。遺産の分割で揉める事が予想される様な場合に保険金で手当をしておく必要があります。 |
その他の対策 |
養子縁組で法定相続人を増やす 法定相続人を増やす事も相続税の税額軽減の手段にはなります。つまり養子縁組をする事で法定相続人を増やして税金を軽減しようという策です。 先にも書きました通り、相続税は相続財産から基礎控除を控除して計算されますので、法定相続人を増やせば単純に一人600万円分の基礎控除が増えて課税対象資産が減るばかりか、相続税は実際の税額算出では各相続人に財産を按分した上で計算される事となりますので、相続税の超過累進税率を考えるとそれ以上の効果があります。 しかし法定相続人を増やすということは別なリスクを背負い込む事となりますので、余程考えた上で行わないと、後々で税額軽減ではとても合わないといったトラブルになる可能性があります。遺産分割での「争族」トラブルは、法定相続人の数が増えれば累進的にリスクが増す事をお考えください。 なお、養子縁組による法定相続人ですが、相続税では実子があった場合は一人だけ、実子が無かった場合でも最大二人までしか認めておりません。つまり何人養子縁組をしても、相続税の税金算出の計算ではこの数までしか認めませんよ、といったものです。逆に言えば、実子がいた場合でも一人分だけは養子縁組の税金軽減ができるというものです。 でもあくまで遺産分割のトラブルを一番にお考えください。 |
お子様名義の預金が相続資産と認定されない様に! 上にも書きましたが、お子様やお孫様の将来のためにコツコツと預金をしてあげても、実際に相続が発生(亡くなった)した場合には、かなりの確率で被相続人の資産と認定されて相続税の対象となります。 つまり例え預金の名義がお子様であっても、実際にその通帳や印鑑を管理保管しているのが被相続人であったら、被相続人が相続人の名前を借りて預金していたものと認定される訳です。 せっかくコツコツと貯金をしてあげていたのですから、この際、相続対策の一環としてそれらの預金をちゃんとお子様やお孫さんに渡してしまいましょう。 通帳や印鑑をお子様やお孫さん自身がちゃんと管理保管していれば、この資産は相続税の対象とはなりません。そのためにもお子様達がちゃんと自分自身で管理保管しているという立証が必要です。具体的にはお子様達が自分自身でその預金を引き出して費消している事実等があれば問題は無いでしょう。 これらの事も相続の対策として早めに済ませておいた方がベターです。 |
相続ビジネスには充分にご注意を! 相続税が平成27年から大幅に課税対象が広がる事で、投資会社や金融機関・不動産会社等は様々な対策案をビジネス化しております。 しかしそのビジネス化したいくつかのプランの中には、必ずしもお勧めしかねるものもあります。ビジネス化されるということは、まずはプランを作成提案する業者側の利益が最優先となりますので、安易にそのプランに乗る事には慎重さが求められるでしょう。 相続税を安くする事のみを重視し過ぎた事で、逆に将来の生活設計まで狂ってしまうといったものもありますし、相続対策プランは充分に検討を行い、できれば複数の人に相談した上でお決めになられた方が良いかと存じます。 |