滞納処分について


2009年(平成21年)9月作成



 経済不況の中、特に中小零細企業の税金滞納者が近年かなり増加しつつあり、特に消費税率が3%から5%に引き上げられた以降、そして消費税の免税点を引き上げた以降の消費税滞納者が凄まじい勢いで増えております。

 税金滞納者に対しては課税庁たる税務署は「滞納処分」を行うことで納税額を取り立てる事となりますが、、その滞納処分によるトラブルは全国的に後を絶たず、深刻な問題となりつつあります。

 トラブルの原因としては、もちろん取り立ての厳しさにもあるのでしょうが、それ以上に問題なのは、滞納処分を行う税務署等の課税庁が納税者の納税義務のみを主張する一方、本来認められるべく納税者側の権利等を一切説明しない体制にもあります。

 税金を滞納しているからと言って決して卑屈になる必要はありません。元々国税徴収法には滞納納税者を救済する各種の規定があります。残念なのは課税庁がその救済規定を使わない(と言うより無視?)滞納処分のやり方であり、課税庁側の体制にも大きな問題があると思っております。





最近の税務署の滞納処分のやり方

 右肩上がりで経済が成長していた以前とは違い、国の財政が危うくなった現在は税務署の滞納処分のやり方もかなり様変わりしており、明らかに徴税強化といった方向に転換しているのが見て取れます。

 具体的には納税者が納税計画を出しても、税金の全額納付に時間がかかりそうな場合は即差し押さえといった強行的なやり方に変わってきており、税務署の徴収担当者も滞納する納税者と向き合って話し合うといった時間的余裕も無く、ただ前年対比等の係数で尻叩きをされていると聞いております。

 国税庁の使命は従来
「指導・相談・調査・広報」が四本柱と言われてきていましたが、平成16年にこの使命が「調査・徴収」の二本柱と変わり、その方針転換が滞納処分の強化、或いは税務調査の大幅件数増加となって表れてきております。

 この国税庁の路線変更が原因なのかどうなのかは不明ですが、後に記載する滞納納税者の救済規定でもある各種法令の適用には税務署は消極的であり、滞納納税者はますます追い込まれつつある状況と言えます。


税金滞納による主なトラブルの実例

 この税務署の強行的な滞納処分による各種トラブルは全国的に増加しております。2007年には僅か60万円余りの消費税を滞納していた業者に税務署は土地建物の差し押さえを実行し、そのために銀行融資が行き詰まり、結果的には経営者が自ら命を絶つ事となった山梨県の事例に見られる様に、滞納を苦に自殺をする業者は後を絶ちません。

 分割して月々納税を続けていたのに、いきなり全額一括納税を迫られて自殺した大阪府の例、また同じく月々分割納税を行っていたのに売掛金を全額差し押さえされてしまい自殺に追い込まれたという長崎県の例もあります。

 とにかく、国税徴収法に規定される納税者の救済規定さえちゃんと適用さえすれば本来救われるはずの納税者の命が失われているこの現実には怒りを感じているところです。





滞納処分とは?

 滞納処分とは、納期限までに納税ができなかった場合に、その税金の債権者、つまり国税の場合は税務署がその国税債権の執行を行う手続きの事で、国税の納期限から50日以内に発行される督促状の後の手続の総称です。

 税務署での滞納処分の流れの一例を簡略化して書けば次のとおりとなります。

(1) 税金の納付期限(納付ができず)
(2) 税務署等から督促状が送付される(50日以内)
(3) 督促状によっても納税が行われない場合、税務署は納税者の財産調査を開始
(4) 納税者の財産を差押え
(5) 換価 (差し押さえた財産を強制的に金銭に換えて債権充当すること)
(6) 配当 (換価後に余剰金があった場合に返金されること)


この内、(3)以降が滞納処分と称される手続となります。
そしてトラブルとなるのは(4)の差押手続と(5)の換価手続です。




滞納納税者を救済する各種規定等
納税の猶予

 納税の猶予とは、災害や病気、著しい業績の悪化等で納税が困難になった場合に申請ができるもので、申請が認められた場合は原則1年間、最長2年間の分納となり、国税の利息とも言うべく延滞税も全額免除、または軽減となります。

 この規定(国税通則法第46条)は、国税債権を管理する税務署も本来ならば要件を満たす滞納納税者に対して積極的に認めるべきものなのですが、何故かこの規定適用には消極的、と言うよりも滞納納税者に説明さえ行っていないという執行体制があり、その事が滞納納税者の苦しみを一層助長している結果となっているのが残念なところです。

 納税の猶予の申請条件は下に記載したとおりであり、震災・風水害や火災等の災害、そして社長・事業主本人やその同居親族の病気怪我による納付困難、また業務で不渡りや貸倒等の多額の損失を受けた場合なども申請の条件となりますし、国税通則法第46条の3項の規定では、修正申告の提出や更正決定処分を受けた場合の納税困難等も申請の理由に当たります。

 この申請はかなり適用条件に幅があります。近年の不況で売掛債権の貸倒等が頻発しておりますし、それによる資金圧迫等が理由で納税に支障を来す場合は積極的に税務署に納税猶予を申請すべきと思われます。また税務調査等で3期分や5期分も遡って修正申告を提出した場合等も当然に納税猶予の申請要件にはなります。

 特に税務調査で数年分の課税処分を受ける場合などは日常的によくある事なのですが、税務調査の追加税額を理由に納税猶予を申請した等々の話はほとんど聞こえてきません。これは納税者側がこの制度を知らないという事もありますが、それ以上に税務署側がこの規定適用に消極的、出来れば納税者側には知らせたくない制度、といった勝手な税務署側の本音が原因している事は間違いがありません。


換価の猶予

 「換価」とは差し押さえた納税者の財産を税務署等が公売等で換金処分して滞納税額に充てる事を言います。そして「換価の猶予」とは国税徴収法第151条の規定によるもので、差し押さえた納税者の財産を税務署が換金処分する事によって、納税者の生活の維持が困難となる場合や事業が継続できなくなるという怖れがある場合に、税務署の判断でその手続を猶予するという規定です。

 換価の猶予が行われた場合、その差押財産の換価処分は原則1年間、最長2年間猶予される事となります(延滞税軽減・免除規定もあります)。

 これは納税者側からの申請は必要無く税務署側で決められ、つまり納税者側からの意思表示は無関係に行われるものですが、かなり税務署の徴収担当者の裁量判断による部分もあり、特に最近はハードルを上げつつある気がします。いくら国の財政が厳しくても納税者の苦悩軽減のために弾力的、そして積極的に運用してもらいたいものです。


【追記】
平成26年の税制改正で換価の猶予についても納税者側からの申請が可能となりました。


滞納処分の執行停止

 執行停止とは文字通り債権者たる税務署等が滞納処分の執行を停止するもので、滞納処分を執行する事によって滞納納税者の生活を著しく窮迫させる可能性があるか、或いは滞納処分を執行する財産が無い等々の理由がある場合に税務署長の判断で行われるものです。

納税義務の消滅

 滞納処分の執行停止後3年間経過時点で納税義務が消滅となります。つまり債権者たる国(税務署)は一切の債権を失い、滞納納税者は滞納していた税金の納付義務が無くなります。



参考事項 = 納税の猶予の適用要件

<納税猶予の適用要件を抜粋すれば以下のとおりです>

納税者がその財産につき震災・風水害・落雷・火災その他の災害を受け、または盗難にかかったこと

納税者又はその者と生計を一にする親族が病気にかかり、又は負傷したこと

納税者がその事業を廃止し、又は休止したこと

納税者がその事業につき著しい損失を受けたこと

その他



 上記要件の中の
「納税者が事業につき著しい損失を受けたこと」という適用要件については、「納税の猶予等の取扱要領」により次の通り規定されています(抜粋)。

「事業につき著しい損失を受けた」とは、調査日(納税猶予の始期の前日)前一年間(調査期間)の損益計算において、調査期間の直前の一年間(基準期間)の利益金額の2分の1を超えて損失が生じていると認められる場合をいうものとする。

なお、調査期間内において、例えば購入予定の資材の高騰、在庫商品の価格の下落、取引先の都合による売買契約の解除等の損失発生の原因となる様な事実があり、当該事実の発生した日の特定ができる場合には、その日以降調査日までの間に生じたと認められる損失金額と基準期間の利益金額とを比較して上記の判定を行っても差し支えない。







追記 ・・・ 2013年10月UP

本ページを2009年秋にアップして以降、全国各地の方々より何件もの電話、何通もの問い合わせメールをいただきましたし、またテレビ局の取材なども受けました。
本当に苦悩に満ちた真剣な相談ばかりでした。
それだけ滞納に苦しんでいる方が多いのだと思います。


税金の滞納に苦しんだ余り自ら命を捨てる方もおられます。
実に悲しい事です。
確かに本来は支払わなければならない税金です。
お役人からすればどうしても見逃す事はできないのも理解できます。
しかしたかが(たかが!、です)税金のために命まで投げ出すところまで追い込む必要があるのでしょうか。


国税徴収法は徴税のルールを定めた法律です。
公的機関であるお役所が国民から税金を徴収するに当たっては、間違っても悪徳金融業者やサラ金といったやり方で取り立てを行う事の無い様、法律でルールを定めているものなのですが、残念ながらここ数年来ずっとそのルールが無視される傾向にあるのが気になるところです。
特にここ数年は、国よりも県や市等の地方税当局の方にルール違反が目立つようです。


児童手当の差押えが禁じられているという事で、児童手当が振り込まれた僅かその9分後にその振込口座そのものを差し押さえた鳥取県の対応(2013年3月29日に鳥取地裁で違法との判決が出て県は控訴中)、更に滞納者の羞恥心を煽る目的で滞納者宅に「差押え実施中」と書いた車を乗り付けたり(九州の某市)と、現在のお役所の滞納処分のやり方はサラ金顔負けです。


悪質な滞納者は放置すべきではありません。
しかし誠実に滞納税額を僅かづつでも支払おうと努力している納税者に対し、本来必ず行わなければならない説明や教示を行わないで少しでも納付実績を上げようとするお役人が数多いのも現実です。


憲法に規定されている基本的人権は滞納者であっても絶対に保障されるべきものです。今後行われるであろう消費税の税率アップで、ますます納税者の苦悩は増す事となります。



上に書いた鳥取県の差し押さえ処分は、高裁でも違法判断が出され、処分取り消しとなりました。



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