国税通則法について


【税務調査のルールの変更点】

2013年(平成25年)11月UP

平成25年(2013年)より改正国税通則法が施行され、税務調査のルールが初めて法制化される事となりました。
今までは税務調査を行う側の言い分だけで行われてきた税務調査にようやく法制化されたルールが生まれたという事は、納税者たる国民に取っては嬉しい事なのでしょうが、しかしその内容というのは、課税庁側の権限ばかりが強化され、納税者側には義務ばかり求めるといった内容で、私達が長年要求し続けていた内容とは程遠いものとなっています。

具体的には、民主党が政権公約に掲げていた【納税者権利憲章】は見送られ、法案の段階では不充分ながらも入っていた納税者の権利に関する事項は全て削除されました。つまり権利を与えず義務ばかりを納税者に求めるといったもので、逆に言えば税務署等の課税庁の権限を強化したものとなっています。

正に納税者の声を無視したもの
だと言わなければなりません。






税務調査の事前通知ルール
原則は事前通知が必要 (しかし例外もあり)

他の先進国では例を見ない裁判所の令状無しでの【無予告】な強制(的な)調査が全面的に禁じられた訳ではなく、「国税通則法第74条の10」で例外的に事前通知を要しない調査も認めています。

【国税通則法第74条の10】の抜粋
  (全文は一番下の資料参照)

過去の調査結果の内容又はその営む事業内容も関する情報その他国税庁等が保有する情報に鑑み、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合に限り行うことができる

ただ、この規定はあくまで例外規定であり、マルサの行う国税犯則取締法による強制調査を除く全ての税務調査は原則事前通知が必要な事は法制化されました。

よって仮に課税官公庁が事前通知無しで税務調査を行う場合は、上にある様な「課税標準または税額の把握を困難にするおそれ」、または「遂行に支障を及ぼすおそれ」がある事を自ら納税者側に立証する責任があります。


無予告調査の理由は納税者に開示する必要あり!


しかし課税庁としては無予告調査の理由はあくまで開示対象ではなくできるだけ隠し通したいというのが本音な様です。
平成25年8月9日に北陸税理士会との間で行われた懇談会で、金沢国税局直税部長はこの様な回答をしております。

「事前通知を行うことなく調査を実施する場合に、その理由を納税者等に説明することは法令上規定されておりません」

正に暴言でしょう。例外規定を適用した理由の説明責任が無いと、課税庁側はこの
例外規定を自分だけの解釈で自由に乱用できることとなり、例外が例外でなくなってしまう危険性があります。

事前通知を行えるのは税務署長だけのはず

国税通則法第74条の9の規定は納税義務者に対する事前通知を定めた規定です。その1項の抜粋文をご覧ください。

税務署長等(国税庁長官、国税局長若しくは税務署長又は税関長をいう)は、国税庁等又は税関の当該職員に納税義務者に対し実地の調査において第74条の2から第74条の6まで(当該職員の質問検査権)の規定による質問、検査又は提示若しくは提出の要求を行わせる場合には、あらかじめ、当該納税義務者(当該納税義務者について税務代理人がある場合には、当該税務代理人を含む。)に対し、その旨及び次に掲げる事項を通知するものとする。
1.質問検査等を行う実地の調査を開始する日時
2.調査を行う場所
3.調査の目的
4.調査の対象となる税目
5.調査の対象となる期間
6.調査の対象となる帳簿書類その他の物件
7.その他調査の適正かつ円滑な実施に必要なものとして政令で定める事項

ご覧の通り、納税者に事前通知を行う事ができるのは、税務署の調査の場合は税務署長であると明確に法律で規定されております。しかし実際には税務署長自らが納税者に電話で調査通知を行うなどといった話は聞いた事がありません。調査実施の際の事前通知はほぼ100%が実際に調査を行う調査官から電話等で連絡されます。よって法を読む限り、現在の税務調査の事前通知は違法状態にあると言わねばなりません。


税務調査の事前通知は、納税者権利憲章が確立された韓国等の諸外国では全て文書で行われております。もちろん私達が納税者権利憲章の制定を求めた際も事前通知は文書で行う事を求めていました。そして民主党政権時に政権公約の案として作成検討された納税者権利憲章の案でも事前通知は文書が原則だった様です。つまり税務署長名で発行された文書で事前通知を行うというのが当初の予定だった訳です。


それが政権交代後に国税庁側の「強い希望」により文書通知規定が削除されました。課税庁側は納税者に対しては証拠の残る文書類はなるだけ発行しないように、という体質が昔から染みついており、今回もその悪しき体質がせっかくの納税者権利アップの機会を奪ったものだといえます。

国税庁には納税者に対しては後々まで証拠の残る文書は渡さないといったDNAがあります。筆者も何度か税務署に対して質問状等を提出したことはありますが、文書で回答を受け取ったことは一度もなく、いつも全て電話回答でした。


文書通知義務を骨抜きにして電話連絡とした事で、逆に税務署内では事務負担が増大している様です。
事前通知は上にもある様に7項目(実際には調査担当者の所属と名前・調査対象者の住所氏名を含めて11項目となる)の全て納税者側に通知しなければならず、1項目でも通知漏れがあった場合にはその調査着手は違法となります。よって調査を担当する調査官とすれば電話で30分以上も延々と通知を行う訳ですが、調査官も大変でしょうが、受ける方の納税者や税理士も迷惑なだけのものです。


しかしそこまでして納税者に文書を出すのが嫌なのでしょうか。
税務署長名で文書を発行してしまえば万事解決するのですがね。
なお現実には税務署独自の判断で納税者に対する事前通知を文書で行っているところも全国では何カ所かある様です。そもそも30分以上もかかる連絡を電話で行おうとする事自体に無理があるのですね。






調査実施の際のルール 
コピーをとるには納税者の了解が必要 

調査官からコピーを求められた時には必要な理由を確認する必要があります。その上で納得されたらコピーをお渡しすれば良いでしょう。

税務署が納税者の書類等をコピーを取りたい場合は納税者の同意が必要となりますし、仮に断っても罰則規定はありません。
そもそも納税者が自分の提出した申告書等を再確認するために税務署に行っても、税務署は閲覧までは認めますが絶対にコピーを渡す様な事はせず、何時間かかっても自分で書き写す様に言われるだけです。
このあまりにも不親切な対応を見れば、納税者側も同じ対応をしても文句を言われる筋合いではありません。

最近は税務署が携帯コピー機を持参して納税者の了解無しに勝手にコピーを取る事が多いのですが、本来この様な行為は違法となります。
コピーが必要なのだったら、その1枚1枚についてその都度納税者側に説明をして納得をしてもらい、更にコピー機の電源の使用許可を得た上で初めてコピーが可能となる訳です。


書類の持ち帰りは「留置き」となります 
 
税務署は帳簿書類や証憑類、そしてメモの1枚にいたるまでの全ての書類を勝手に持ち帰る事はできません。これは「留置き」と言われる行為であり、税務署から合理的な理由の説明を受けた上で納得された時のみ持って帰ってもらう様にしましょう。

税務署が「留置き」を行う際にはは必ず「預かり証」の交付が必要となり、必ず全ての書類等を返却しなければなりません。もちろんメモ1枚でも同じです。

「留置き」は義務ではありませんので断っても問題はありません。税務署が留置きを行いたい必要性を納税者に説明し、そして納税者が納得すれば応じてあげれば良い訳です、

税務署側は「預かり証」を発行する事や後日返却する手間を嫌がって、この本来ならば「留置き」とされる行為を敢えて「提出」だと言ってくる事があります。
「提出」の場合は「留置き」とは違い「預かり証」の発行も返却も不要となりますが、要するに税務署側の都合だけが優先されたやり方です。
そしてどちらにしろ納税者の了解が必要な事は同じです。

 反面調査はやむを得ない場合のみに限定

反面調査とは取引先や金融機関に対しての調査であり、つまり調査対象企業の帳簿書類の調査だけで取引実態が分からない場合などにやむを得ず行うはずのものです。
しかし近年その反面調査が乱発傾向にあり、納税者の了解も無しに行われる事から納税者の今後の取引等に支障が出たり信用が失墜したりといったトラブルも頻発しております。

税務運営方針では反面調査を行う際の要件を次のように規定しています。
「反面調査は客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行う」

つまり「客観的にみてやむを得ない」という事は、納税者自身が調べられても仕方がない、という認識を持つといった条件が必要であり、当然ながら納税者の了解と納得が条件となります。


 
パソコンの中まで調べる権利はあるのか 

パソコンの中には企業の大事な情報が集まっており、例え税務調査といえども勝手に中を調べる権限はありません。パソコンデータの提示を求められた際にはちゃんと印字した上でお見せすれば良いでしょう。

課税庁側の主張
「パソコンが企業の所有物である以上はパソコン内にプライバシーなデータは無いはずであり、よって中のデータを調べる権利は質問検査権に含まれる」


パソコンの中身のデータは個人情報です。パソコン本体が企業の所有物なのか個人のものなのかは無関係です。
データは税務や財務会計情報だけではなく取引先の重要な情報もありますし、医師や弁護士等ならば守秘義務がある情報も当然に入っています。また飲食店ならば競争相手には絶対に秘匿しなければならないレシピ等の情報もあるでしょう。

その様な重要情報の入っているパソコンの中を勝手に調べる権利は課税庁側にはありません。最近はUSBメモリ等にパソコンデータを写し取るといったやり方の税務調査も見られる様ですが、この様な行為は正に窃盗行為に近いものでしょう。

 




調査の終了の際の手続 

調査の終了の際の手続が明確化されました。
調査の結果、問題無しと判断された場合は、税務署からその旨を記載した書類が送付されます。
これは昔の「是認通知書」に当たります。是認通知書の時は、この通知書を発行する事は担当調査官のプライドに触れるものらしく、あまり積極的に発行はされなかったのですが、通則法施行後は調査で問題点が出なかった場合は必ず発行される事となりました。


調査で問題点があった場合、つまり追徴税が発生した場合などですが、この場合は納税者に対し修正申告書を提出してほしい旨の慫慂が行われます。なおこの慫慂に応じなかった場合には税務署は更正決定処分で追徴課税を行ってきます。


なお修正申告書を提出しても更正決定処分を受けても納税額には差はありません  


なお調査結果の説明についても文書ではなく口頭で実施されるのが原則です。これも納税者には後々の証拠となる書類は渡したくないという体質の現れです。

 
修正申告書の提出慫慂の際にはリスク説明の義務 

納税者が修正申告書の提出を行う場合は、調査の内容を全て認めるという意思表示にもなりますので、調査結果に対する不服は一切申し立てる事ができなくなります。税務署はこのリスクを納税者に対し説明した上で修正申告書の提出慫慂をしなければなりません。

今までは納税者の不服申立権を奪う目的で、かなり無理した強引な修正申告書慫慂が行われていた事実もあります

このリスク説明だけは、国税庁にしては珍しく納税者に対し文書で行われる訳ですが、それは定型文を印刷した紙を1枚渡されるだけであり、更に確かにこの書類を受領したという事で受領書に署名押印まで求められます。

納税者だけではなく内部の職員さえも信用していない国税庁の体質が正に現れています。


 
 全ての処分には理由付記が必要

課税処分には必ずその処分理由を書いた理由付記が必要といった、考えてみれば当然の事がようやく法文化されました。

今までは青色申告者に対する更正処分については理由付記義務がありましたがそれ以外の処分については一切何も理由を書かず、ただ追徴税額だけを知らせてきた訳ですから、そもそも異常な状態でした。

課税庁側に取ってはこの理由付記がかなり重荷になるらしく、よって今まで以上に理由付記の必要の無い修正申告書の提出を納税者側に求めてくる事が想定されます。つまり要約すれば、税務署側の事務手数が惜しいので納税者側に不服申立権の行使を遠慮してもらって楽をしようという発想です。

なお理由付記は加算税の通知や滞納処分にも義務化されております。


 







ちなみに国税通則法の国税庁の考え方は
税務調査手続に関するQ&A
です

 
 
Q&Aというのは国税通則法について国税庁なりの解釈を例示したものに過ぎず、つまり納税者等の一般国民に強制できるものではありません。
法律の解釈権は国税庁にも一般国民にも平等公平に与えられており、国税庁が一方的な解釈をして国民に押しつける事はできません。

このQ&Aでも、あくまで国税庁は税務調査を如何にスムーズに行うか、といったスタンスで法の解釈を行っており、つまり調査を行う側に都合良く解釈されておりますので、あまり参考にならさない方が良いかと存じます。。







行政手続法による税務調査 

「所得内容のお尋ね」、或いは「○○収入についてのお尋ね」、「○○費についてのお尋ね」と、名称は様々ありますが、最近の税務署に目立つのがこの様にお尋ね文書という形式で納税者に対して照会文書を出してくる事です。

課税庁が税や所得について納税者に質問検査を行う場合、当然ながら国税通則法に規定された質問検査権によるのが当然だと思うのですが、これらの文書は質問検査権ではなく行政手続法によるもの、つまり「行政指導」だとし、照会文書の余白には「この文書による行政指導の責任者は××税務署長です」等の記載がされています。

行政手続法による照会文書等には法的には
回答義務がありません。一般的なアンケートなどと同じ程度の扱いとなります。また行政官公庁は回答をしなかった国民に対し、回答が無かった事を理由に一切の不利益処分を行う事は禁じられています(行政手続法第32条)。

しかし税務署の発行するこれらの照会文書には、
回答に応じない場合には税務調査を実施するといった脅しの文面が書かれているものもあり、正に法を無視した行政が行われているといえます。
 
【行政手続法第32条2項】
行政指導に携わる者は、その相手方が行政指導に従わなかったことを理由として不利益な取り扱いをしてはならない 
 
国税通則法により新たに行わなければならない事務手続は確かに税務署の調査業務を大きく圧迫している事は理解できます。課税庁に取って調査の接触率を確保する事は至上命題なのでしょうが、新たに増えた事務手続によってこの接触率は間違いなく低下するのは仕方がないでしょう。

調査の接触率を如何にして低下させないか、つまり国税通則法に定められた事務手続を踏まないで納税者に税務調査の威圧を与える手段として行われているのがこのお尋ね文書です。現実には納税者に対し質問検査権を行使しておきながら、国税通則法の適用から逃れられる様にわざわざ行政手続法によるものと偽って誤魔化しているのがこの文書だといえます。

調査の接触率を維持しなければならない事は一国民として理解はできますが、その手段としてこの様な違法な方法を採る事は許されません。法治国家ならば法に従った行政をお願いしたいものです。





資料

事前通知を要しない場合
国税通則法第74条の10 
(事前通知を要しない場合)
第74条の10 前条第1項の規定にかかわらず、税務署長等が調査の相手方である同条第3項第1号に掲げる納税義務者の申告若しくは過去の調査結果の内容又はその営む事業内容に関する情報その他国税庁等若しくは税関が保有する情報に鑑み、違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれその他国税に関する調査の適正な遂行に支障を及ぼすおそれがあると認める場合には、同条第1項の規定による通知を要しない。 
上記条文中の「事前通知を要しない場合」の例示
国税庁通達
(24年9月12日付け 26年4月3日改正)
国税通則法第7章の2(国税の調査)関係通達の制定について
(法令解釈通達)
 

(「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等
の把握を困難にするおそれ」があると認める場合の例示)

4-9 法第74条の10に規定する「違法又は不当な行為を容易にし、正確な課税標準等又は税額等の把握を困難にするおそれ」があると認める場合とは、例えば、次の(1)から(5)までに掲げるような場合をいう。

  • (1) 事前通知をすることにより、納税義務者において、法第127条第2号又は同条第3号に掲げる行為を行うことを助長することが合理的に推認される場合。
  • (2) 事前通知をすることにより、納税義務者において、調査の実施を困難にすることを意図し逃亡することが合理的に推認される場合。
  • (3) 事前通知をすることにより、納税義務者において、調査に必要な帳簿書類その他の物件を破棄し、移動し、隠匿し、改ざんし、変造し、又は偽造することが合理的に推認される場合。
  • (4) 事前通知をすることにより、納税義務者において、過去の違法又は不当な行為の発見を困難にする目的で、質問検査等を行う時点において適正な記帳又は書類の適正な記載と保存を行っている状態を作出することが合理的に推認される場合。
  • (5) 事前通知をすることにより、納税義務者において、その使用人その他の従業者若しくは取引先又はその他の第三者に対し、上記(1)から(4)までに掲げる行為を行うよう、又は調査への協力を控えるよう要請する(強要し、買収し又は共謀することを含む。)ことが合理的に推認される場合。
 


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