始めに・・・調査上のトラブルは国税局の【増差実績主義】にあり! |
調査に来る税務職員の使命は申告漏れの所得を見つけ出して追徴の課税を行う事に尽きます。そしてできるだけ多額の申告漏れを発見して追徴課税を行う事が税務職員自身の成績になりますし国税局や税務署内での出世にも結びついてきます。 国税庁は公式には「課税の公平」という原則のための「納税義務が適正に行われているかどうかの確認」が税務調査だと言っていますが、実際には単なる「確認」で終わる事はありません。「確認」の結果、適正に納税義務を果たしていると認められた場合は「申告是認」となる訳ですが、税務職員にしてみれば申告漏れ所得も追徴課税もできない申告是認は「自らの恥」でもあり、よって少々強引なやり方や無理だと思われる判断で追徴税額を突きつけてきます。 以下の調査事例はこの様な税務職員の立場、つまり申告漏れ所得や追徴課税の金額という実績(増差実績主義といいます)で職員の勤務評定を行うという体質の中で生まれてくるものであり、税務職員に取っても調査を受ける納税者に取っても不幸でしかありません |
「お土産」無しでは絶対に帰らない税務署員 |
二日間に渡って徹底的に某法人を調査する30歳代の男性税務職員。どこをどう調べても問題点となる部分が見付からず少々苛立った様子。最後には従業員の通勤経路を調べ、通勤手当の非課税限度額を僅かに超えているからと源泉所得税の課税、それも一年で僅か数千円程度に過ぎない税金を5年間遡及して課税する事を言い出しました。 通勤手当は確かに非課税限度額がそのキロ数によって決められています。例えば車で通勤する人の場合は、片道2キロ以上の場合は4,100円まで、10キロ以上は6,500円までは所得税の対象としないという規定ですから、仮に片道が2キロに満たず1.9キロしか距離が無かった場合は月額4,100円に対して所得税が何百円か追徴されるというものです。それを時効の目一杯である5年間分課税するという方針には少々呆れ果てました。 まあ法律を厳密に適用すれば税務職員の主張は全く間違ってはいません。しかし行政手続として考えた場合、この様な調査を行う事は決して良い結果を生まないでしょう。 「税務調査に来たら絶対にただでは帰らない」 「いくらかのお土産(追徴課税)を渡さないと調査は終わらない」 といった事が世間一般で言われていますし常識にもなっていますが、行政のあり方としてはそれで良いのでしょうか。 本調査の場合は法人税にも消費税にも全く問題点はなく、つまり「適正に納税義務を果たして」いた会社でした。そんな会社に僅か数千円の税金を5年間分課税して数万円程度の追徴課税するよりは、こういう細かな問題点もありましたが今後は注意をしてこれからも適正な納税義務を果たして下さい、と言う方が余程税務行政にはプラスになると思いますし男を上げますよね。 なおこの事案ですが、国家機関が国民に対して行う行政手続としてはあまりにも問題だと税務職員の上司に当たる統括官(謂わば係長職)に徹底的に抗議を行いましたが、統括官も実績が欲しい事には変わりはなく、結局は会社側の希望もあって3年間分のみの追徴課税を甘んじて受けました。つまり「お土産」を渡して調査を終えてもらったという事です。 金銭的には僅かな負担ですが、でも若干の支払をしないと帰らない、つまり調査を終了しないといったこの体質は考え直す必要があるのでは・・・。後味の悪い事案でした。 |
細かい、と言うか、みみっちい性格 |
これは性格なのでしょうかね。上の事例と同じ様に二日間徹底的に調べても何も問題点が無かった修理業の会社の話です。 よほど追徴課税の実績が欲しかったのか、最後にはネジやボルトナットといった工場内の消耗品類について貯蔵品として在庫計上する様に言ってきました。 まあ言いたい事はよく分かります。しかしそれらの物をいくら掻き集めてみても、どう考えても金額的には一万円にも満たないのではないかと言ったのですが、しかし細かい方でしたね。 まあ決算期末時点で貯蔵品として計上するというのは誤りではありませんから、税務署側で具体的な金額を根拠を以て示してくれたら修正申告しますと言ったらさすがにその先はありませんでした。誰がどうやってもあんな細かい物の在庫計算なんてできないでしょう。 税務署員が実績を上げる(つまり申告漏れ所得を見つける)ためにはかなり強引で無理な解釈を行うことがありますし、酷いのになるとでっち上げに近い方法で税金を追徴する事もあります。税務署員に申告漏れを指摘されてもそのまま言うがままに修正申告をするのではなく、必ずその判断の正否をチェックする必要があります。 |
時効の無い法律 |
殺人事件の時効が廃止されたのは知ってはいましたが、まさか税法の中に時効の無いものがあるとは私も知りませんでした。 これは相続税の調査でした。相続税の申告書自体は私のところで作成したものではなく別の税理士に依頼して提出していたものですが、その後の数ヶ月間に及ぶ税務調査の途中で私に調査立会の依頼があったものです。 問題となったのは調査の対象となっている相続ではなく、それより遙か以前の15年前に被相続人(つまり亡くなった方)が子供に贈与した金銭についてでした。 税務署の主張としては、 「15年前の贈与の際に贈与税の申告をしていないのだから贈与とは認めない」、 「贈与でない以上は15年前に子供に渡した金銭は貸し付けだ」 「よってこの貸付金は相続財産の申告漏れだ」 といったもの。 納税者自身もまさか15年の前の事を指摘されるとは思ってもいませんでしたし税金の時効の事も知識として持っていましたので、その事を税務職員に主張したところ、 「相続税には時効はありません!」 と言われたらしいです。 しかしご存じの通り、税金にも当然ながら消滅時効があります。 通常は5年間(贈与税は6年間です)、明らかな意図を持って脱税を行っていた様な場合であっても7年間で時効となります。 この事案の場合は、贈与者も受贈者もサラリーマンだった事もあって税の知識が薄く、15年前の贈与の際に贈与税の申告が必要な事を知らないでそのまま無申告状態となっていたものですから、悪質な脱税事件ではありません。よって既に時効が成立しております。つまりどんなに調査官が口惜しがっても課税を行うことはできません。 「贈与税を申告していないから贈与ではない」 調査官のこの主張も実に変ですね。 そもそも贈与を受けた人の全てがちゃんと申告していないから税務署が絶えず目を光らせているんでしょ?。きっとこの調査官は性善説で、国民は100%ちゃんと申告をしていると信じ込んでいる良い方なのでしょうね。でもそうだったら税務署の仕事が無くなりますね。 おまけがあります。この調査官は15年前に贈与税の申告を失念していた納税者に対して「貴方は脱税者だ」と暴言まで吐いたらしいです。もちろん厳重に抗議をして調査担当者を交代させた事は言うまでもありません。 「脱税」とは犯罪であり、税を逃れるといった明らかな意志を以て租税回避行為を行うものであり、時には懲役刑をも科せられますし前科もつく行為です。申告が必要な事を知らなかった、或いは忘れていたといった行為は当然ながら脱税行為ではありませんし犯罪でもありません。それを「脱税」だと言って納税者を脅す行為は公務員が職務上行う行政としては、逆に犯罪行為だと言わねばなりません。 税務署が調査を行う際は、貸付だと主張していても逆に贈与だと認定されて贈与税を課税される事は頻繁にあります。親族間の金銭のやり取りの際、貸付の契約書を作成していても、その後の返済が行われていなかったり、また無利息だった場合には、貸付事実を否認して贈与を認定して贈与税を課税する訳です。本件事案の様に、贈与を否認して貸付認定するといった逆のパターンはあまり多くはないようですね。要するに税務署は事実云々よりも、どちらに認定した方が税金を追徴できるか、で判断している様です。 |
江戸の敵を長崎で(権限外の税金で脅す) |
消費税法第30条というのは消費税の仕入控除の要件を規定した法律です。家族経営で小売業を行っているこの会社は、車を購入した際にその名義人が会社ではなく個人名、つまり従業員でもある社長の母親の名義だった事から、税務調査で仕入控除を認めるかどうかが問題となりました。 会社で購入した車を個人名義としたのは理由がありました。名義人とした社長の母親は身障者であり、母親の名義で購入した場合には自動車税の免税が受けられるからです。身障者とは言っても日常的な業務には全く支障の無い程度であり、母親はこの車で日常的に配達等の業務も行っております。 資産の購入者が誰なのかという判断を行うには、 ①購入資金の負担者 ②購入資産の利用者 ③資産の名義 等々で個々に判断すべきであり、ただ名義人が誰かという一点だけで判断すべきではないといった私の主張に対し、税務署側はあくまで名義人が会社でない以上は消費税の仕入控除を認めないと言い、最後には、どうしても車が会社の資産だと主張するのであれば自動車税の免税を否認するとまで言い出しました。 ご存じの通り自動車税は都道府県民税です。税務職員は国家公務員であり、税務署長の発行した質問検査証を提示した上で、許可された法人税と消費税という二つの国税の質問検査権を行使して調査を行っているものであり、つまり自動車税に関しては質問検査権も調査権も課税権も持っていません。 もし自動車税の免税を否認するのであれば、想定ですが税務署長から国税局長を通して各都道府県知事経由で県税事務所長等に課税通報するといった手続が必要な様に思われます。実際にはもう少し簡単に連携で課税が行われているのかも知れませんが。 しかし自分が担当する国税で課税できないから権限外の税金で脅すといったやり方は少々問題だと思いますね。 なおこの消費税第30条に規定する仕入控除要件ですが、税務調査でかなりトラブルを生む事が多い部分です。請求書や領収書等の保存が無いからと、カードで支払った代金の仕入控除を否認してくる調査官はかなり多い様ですね。しかしカードを提示するだけで気軽に買い物や飲食ができるというカードのメリットは無くなりますね。それ以上に高速道路のETC通行料なんてどうなるのでしょうか?。もし税務職員の指示を守ろうとすれば、高速道路の料金所ゲートを通過する度に一旦停止して領収書を貰いに走らなければならないのですが、本気なのでしょうかね?。 なおこの事案ですが、調査官がなかなか理解力も判断力もあるベテランの方で、結局は消費税の仕入控除否認もありませんでしたし、もちろん自動車税の追徴もありませんでした。 この場合は身障者の免税が理由でしたが、それ以外にもわざと名義を会社にせずに車を購入する場合がありますね。保険の無事故割引とかの理由が一番多いのでしょうか。その様な場合に税務署は同じ様に消費税の仕入控除を否認してくるのでしょうか。今度その様な調査事案に当たったら徹底的に争ってみようと思っています。 名義はあくまでその所有者を判断する上での判断材料の一つでしかないのだと私は思っています。携帯電話の名義だってネットプロバイダー費用だって名義は個人のままで会社で支払っている例がかなりあります。もちろん消費税の仕入控除も行っております。 |
娘の仕事なのに・・・ |
調査対象会社は工芸品の加工業です。社長の娘名義の預金に振り込まれている入金は会社の売上除外金だと勝手に想定した税務職員の勇み足のお話しです。 社長の娘は会社内で従業員の一人として働く一方、将来的には工芸品の単なる加工だけではなく、自分でゼロから作品を作るのを目標とし、将来の自立のために会社の終業後や休みの日を使って日常的に自分の作品の製造や展示・販売などを行っていました。しかしまだ若くて経験が浅い事もあり、作品の売り上げは年間数万円から数十万円程度でしかなく、とても食べていかれるものではありませんでした。 会社に調査に来た税務署員が銀行に調査に行ったところ、娘の口座に振り込まれている入金事実を見て会社の売上除外金だと思い込んだ事には無理がありません。優秀な調査官がその様な事を見逃すはずはありません。税務署員は「性悪説」での判断、つまり全ての納税者は脱税を行っているもの、といった前提で物事の判断をしますから、これは仕方のない事でした。 そこですぐにその事を会社と税理士との三者で話し合って事実解明すれば良かったのに、調査官はそれから一ヶ月以上もの期間に渡って銀行や取引先に対しての反面調査を繰り返し、7年遡及して200万円弱の売上除外があったとして追徴税金から重加算税の額まで計算してきました。 しかし娘の行っている仕事は会社の業務とは全く違うものであり、何よりも会社は娘の行っている仕事の事は知ってはいても、その実際の収入がいくらあるかも知らないし取引先がどこかも知らず、いくら何でもこれを会社の収入だと認定するには無理があり過ぎました。 私が行った主張は、①娘の行っている仕事は娘自体が自己の名前と責任と判断で行っているものであって会社は一切無関係である事、②実質所得者はその収益を享受する者が誰かによって判断すべきであり、本件事案についても、娘の通帳は娘自身が管理保管している事から、同収益は会社ではなく娘個人に帰属するものである、といったものです。なお娘は売上金よりも材料代や出品の費用・交通費の方が多いという事で所得税の申告はしていませんでした。 更には7年合わせても200万円にも満たない額なのに、この程度の少額な申告漏れに7年分も遡って課税しようという税務署の方針は国会の附帯決議に反する違法なものである事。また「隠ぺいまたは仮装」の事実も無いのに重加算税の賦課方針を示すなどとは言語道断であるといった主張も行いました。 税務署にもコストパフォーマンスといった考え方があるのかどうかは存じませんが、一ヶ月以上も必死に調べ回って苦労してきた税務署員ですから、課税方針を取り下げる事にはかなり抵抗があった様です。苦労して必死に調べ回る前に早めに聞いてくれれば良かったのに、わざわざ労力と時間を使って何カ所もの取引先に足を運んで調査に行く事もなかったのにと残念に思います。 |
※ 国会の附帯決議についてはリンクページをご覧ください
100万円弱の申告漏れに7年遡及課税 |
これは建設業を営む会社が廃材を処分した際のスクラップ収入を申告していなかった事案です。 スクラップを処分した際には数万円程度の収入があります。当然ながら会社としては雑収入として申告すべきものなのですが、この会社の場合はその金を全て現場監督に預けて従業員達の飲食代金等に充てており、会社の帳面には1円も入金されていない事から結果的に申告漏れとなっていました。 まあ実際には会社に入金が無くても、これは会社の業務遂行上で得た収益ですので申告すべき収入となります。本来ならば会社の雑収入として計上し、使った飲食費を福利厚生費または交際費として決算すべきものでした。税務署の指摘は当然ですし追徴課税やむなしです。 しかし本件事案についても税務署は何と7年遡っての課税方針を示してきました。当然ながら私としては反論しました。だって申告していなかったスクラップ収入は各年度で多くても10万円強程度であり、7年遡っても100万円にも満たない少額です。この程度の僅かな申告漏れに7年遡及課税をするなどとは法の趣旨からして反します。 課税年度を7年遡及する法改正の際、附帯決議(上のリンク)が付けられました。あくまで7年の遡及課税を行うのは悪質な多額の脱税企業が対象であり、この規定をそのまま中小零細企業に適用する事はないように、というのがこの決議の内容です。その様な経緯も無視してただ機械的に7年間の課税を行おうとするやり方は問題視しなければなりません。 この国会附帯決議が可決されたのは昭和56年5月でした。当時の財務大臣(当時は大蔵大臣でした)はミッチーとも呼ばれた渡辺美智雄氏で、税理士資格も持っている名物国会議員でした。長男は「みんなの党」の代表である渡辺喜美氏である事はよく知られています。 税務署というのは財務省の外局である国税庁の末端組織です。その末端組織に所属する税務署員が、国会の附帯決議に反した方針で課税しようとするのは国家公務員の職務範囲を逸脱するものでしょう。 最終的には7年遡及しての課税はありませんでした。激しい公務員攻撃で有名な渡辺喜美氏の父親が奮闘して可決成立させた附帯決議を、末端組織の公務員が無視するといった事はさすがに行わなかった様です。 税務職員に取って申告漏れ所得(増差所得)と重加算税の賦課は実績として評価されています。よって調査官は増差所得を増やすために課税年分数を増やす事はよく行われている様です。通常は3期分しか行わないのに、何かにつけて5年間、または7年間に課税期間を引き延ばして増差所得を増やそうとしますから我々も注意していかなければならないと思っています。なお7年間の課税が行われるというのは、附帯決議を趣旨を読む限り、脱税額数億円といった大口脱税事件しかあり得ないはずです。つまり国税局査察部(マルサ)が実施する脱税事件以外は7年課税はできないと思います。 |
多額な申告漏れは重加算税? |
相続税の調査で1000万円を超える申告漏れが見つかりました。 申告漏れとなった財産は郵便貯金であり、被相続人(父親)が亡くなったすぐ後に相続人(息子)がほとんど使い切ってしまい、相続税の申告を行う時点で残額が無かった事から相続財産として申告する事をうっかり忘れていたものです。 調査官は1000万円もの財産を隠していたのだからと、重加算税の対象となると言ってきました。私は当然ながら反論しました。 重加算税というのは「隠ぺいまたは仮装行為」により税を免れた場合、通常の加算税より重い割合の重加算税を賦課するという行政処分です。つまり通常の申告漏れに対する過少申告加算税は10~15%なのに対し、重加算税は35~40%ですから、納税者に取ってはかなりの負担増しとなるものです。 税務職員に取って重加算税の賦課件数は実績となります。調査官が発見した申告漏れ所得である「増差所得」と共に、重加算税の賦課決定を行った件数は調査官の実績となり、将来的な自分の立場の向上や出世にも結びついてくるものです。よって調査官は本来ならば過少申告加算税の賦課に当たるものであっても、できるだけ重加算税を賦課したがるのは国税庁の「増差実績主義」の基では仕方ないでしょう。 重加算税の賦課対象となるのは上に書いた様に「隠ぺいまたは仮装行為」があった場合に限られています。極端な例ですが、仮に個人企業の経営者が税金を誤魔化そうとする意志を以て過少申告をしていたとしても、隠ぺい行為も帳簿の仮装も無かった場合には重加算税の賦課対象にはなりません。意志だけではなく具体的な隠ぺい工作等の事実があって初めて重加算税の賦課対象となります。脱税の意志には処分はできず、あくまで脱税行為があって初めて処分対象となる訳です。 この事案の場合は、郵便貯金の存在を隠ぺいしていた訳でもなく、また仮装していた訳でもなく、ただ財産の存在を失念していたに過ぎず、よって重加算税の賦課対象とはなりません。当然ながら追加の相続税と共に過少申告加算税の納税を行いました。 なお別な人の相続税調査事案ですが、やはり同じ様に申告漏れ額が大きいから重加算税の対象だと言われました。全く別な税務署で別な調査官だったのですが、黙っていると何から何まで重加算税の対象にされそうです。 加算税の賦課決定権は税務署長にあります。つまり厳罰である重加算税を決定するか、より軽い過少申告加算税で済ませようかというのは法律で定まったものではなく税務署長の判断だけで行われている訳です。法律上は国税通則法第68条にある「隠ぺいまたは仮装」と明確に書かれているのですが、現場の税務署ではこの法律を拡大して無理な解釈を行う事で重加算税を対象を広げて決定してきています。申告漏れの金額が多額だから重加算税の対象となる、といった判断は法律からはどう見ても読み取れません。 |
強制調査と任意調査 |
朝9時に顧問先の建設会社の経理担当者から事務所に電話が入りました。 「税務職員がいきなり4人来ました」 「え~!」 「調査に来たと言ってますがどうしましょうか」 「取り合えず電話に出てもらってください」 調査官の一人に電話を代わってもらい、調査には協力したいけど今日は調査の立ち会いができないので日程を改めてもらいたい旨を頼みました。しかし税務職員が一旦調査に入ったらそう簡単に帰る事はありません。しばらく押し問答が続き、普段おとなしい私もつい苛立って口調が荒くなりました。 「貴方達、フダ(捜査令状)持ってんの?」 「いいえ、法人の特調(特別調査の事)です」 「特調かどうかを聞いてんじゃないの、令状あんのって聞いてんの」 「令状はありませんが」 「任意調査か強制調査かを聞いてんだけど」 「特調なんですけど」 「特調って強制なの任意なの」 「どちらかといえば強制調査とは言えないですね」 「強制調査でなければ任意じゃないの」 「二つに分ければそうなんですけど」 「任意って意味分かるよね」 「はあ」 「企業の同意があって初めて調査できるのが任意だよね」 「・・・」 「今日は帰りなさい、改めて調査の日程を相談しましょう」 こういうやり取りが電話口でかなり続きました。私もこの時は久々に頭に血が昇っていましたので、今でもこの時の光景を明確に記憶しています。 (文章にすると穏やかですが、実際はかなりの口調でやり取りしています) 「分かりました。今日は帰りますが、取り合えず社長と経理担当者に簡単に話だけ聞かせてもらっても良いでしょうか」 「ダメです。改めて調査日に話を聞いて下さい」 「じゃあ5分で終わらせますから金庫の中だけ確認させてください」 「ダメです。すぐに帰ってください」 とにかく朝からグッタリと疲れました。4人の税務署員はそれからまもなく帰り、翌週に改めて私の立ち会いで三日間に渡って調査が行われました。結果は僅かな金額の修正申告書を提出して一段落。しかしこんな事を繰り返していると税理士という職業を選んだ事を後悔してしまいます。 国税局のマルサ(査察部)が行う強制調査は別として、通常の税務調査を行うには納税者側の同意が必要です。更に税理士関与の場合は税理士の代理権を尊重する意味で税理士立会も必要となります。よっていきなり無予告で企業に調査に来ても調査できるはずがないのですが、無予告調査は日常的に行われていました。特に飲食店や小売業者に対しては納税者側の都合など無関係に無予告調査が行われており、この様な国は先進国では日本だけだと言われています。平成25年から施行された国税通則法では、税務調査には事前通知が必要だという当然のことが初めて法制化されましたが、しかし例外規定も設けられており、まだまだ納税者の人権が完全に守られるまでは先が長いな、というのが実感です。 無予告調査の場合は、納税者側には任意調査ではなくあたかも強制調査であると「誤解」させるべく、威圧感を与える意味で複数人数でやって来る事は多い様です。並の神経の人だったら、その日の調査に応ずるつもりが無くても「黙示の承諾」でつい応じてしまうのですが、税務署はそれが狙いです。一旦応じてしまったら、もう納税者の調査同意があったとみなされて調査される事となります。とにかく無予告で税務職員が来た場合は、まずは税理士に連絡する迄は調査に応じない方が良いでしょう。 私はこの外にも数件の無予告調査を受けておりますが、その度に苛々してストレスが溜まるのを感じております。訪問する場合に事前に許可を貰うのは社会人として当然の事だと思うのですがね・・・。 |
私自身も調査対象となりました |
税理士という職業も個人事業主の一つですから当然ながら税務署に調査される事はあります。私も数年前に税務署の調査対象となりました。 税理士の調査を行う場合、何故か若い職員ではなくベテランがやって来ます。私の時も調査に来たのは統括官(一般企業でいうところの係長職)でした。過去3年分の総勘定元帳から請求書・領収書といった証憑類、そして通帳等までを全て用意させて事務所内の一室で朝から夕方まで調査をする調査官・・・。何も問題は無いはずだと決算に自信を持っている私でしたけど、やはり調べられるのは緊張するものです。結果的には何ら問題点は無く指摘事項も無く終わりましたが、でも長い長い一日でした。 顧客の調査立会は何度も経験している私ですが、自らが対象となった経験はこの時が初めてであり、調査の時には顧客はどの様に感じどんな緊張感を持っているかが分かり、私に取っても実に良い経験となりました。 顧客の決算や申告を適正に作成すべき税理士が自らの所得を誤魔化すなんて、こんな事はあり得ないと思うのですが、残念ならが実際にはよくあるらしいです。こういう人は追徴税金云々ではなく税理士資格を取り消すべきだと思いますし、実際に何人かは脱税で資格取消処分を受けております。税務署では国税局の指示で毎年何パーセントかの税理士を実地調査しているらしいです。 しかし何故私が調査対象となったのかは未だに理解できませんね。貧乏で貯金は無いし乗っている車はボロだし羽振りは悪いし。よほど税務署に嫌われているのでしょうね。 税理士に対する調査はこの様な国税通則法の質問検査権に基づく所得税等の調査だけではなく税理士法に基づくものも日常的によく行われております。これは申告漏れ所得の有無を調べるものではなく、税理士業務が税理士法や各種規定・規則に定められた通りに行われているかどうかを調べるものです。 |
調査されても仕方がない・・・ |
某会社の調査でした。現金支払の工事費の領収書はあったものの請求書が見当たらなかったものが何件かあり、後日そのコピーを税務署に送る様に指示されました。3人で調査していた税務職員達がようやく三日間に渡った調査を終えて帰った後での社長との会話です。 「あ、それ無いんだ」 「え?」 「実際には無いんだ」 「それって・・・」 「その工事は全部架空だ」 「え~」 「バレちゃった以上は税金払わなきゃならんなあ」 「・・・」 残念ですが企業によってはこの様に何とか税金を誤魔化そうとするところもまだまだ残っています。バレたら潔く払うけど何とかバレない方法は無いだろうか、といつも考えている様です。 この会社はこの調査の数年前に新たに関与した会社であり、以前の税理士さんとは何かトラブルがあって離れた様です。数年前の税務調査でかなりの追徴税と重加算税も取られていましたので、おそらく調査が原因で離れたのでしょう。 なおこの会社も私が脱税行為を厳重に注意した途端に関与を離れました。いくら税理士さんを代わったところで、脱税の方法や助言をしてくれる先生など存在しないと思うのですがね。この会社はまたバレにくい方法を考えているのでしょうね。 脱税は国に対する詐欺罪に当たると思うのですが、残念ながら日本では軽犯罪かスピード違反程度の認識しか無いのか、この様にバレ元で税金を誤魔化す企業は後をたたないようです。もしバレたら重加算税を払えば済む、といった程度の認識がこの結果を生むのでしょうね。合法的な節税方法だったら税理士の専門分野ですからいくらでも相談に乗りますが、脱税だけは税理士の使命としてお付き合いはしかねます。 |
税務職員にも色々です |
○○税務署のベテランのK調査官。この人が担当調査官だったらホッとします。二日間の予定で始まった調査も、必ず二日目の昼頃には調査を終了してくれますので忙しい身としては実に助かります。 最近の税務署の調査官は真面目な人が多いですね。調査官は法人の調査の場合はだいたい二日間の予定を入れてくるのですが、ほとんどの調査官は一日目の朝から二日目の夕方まで脇目も振らず目一杯調べていきます。十年程度前だったら調査官とも色々な世間話もしましたが、最近の調査官はほとんど無駄話もしないで必死に調べていく方が多いですね。私の性格ならばならばとても無理ですし勤まらないですね。 真面目な調査官が多いという事は、国民全体の奉仕者たる公務員が職務に忠実だという事で我々国民から見ればありがたい事なのですが、でもどこかでストレスを発散しないと大変だな、と逆に同情してしまいます。堅苦しい話ばかりしていないで、たまにはのんびりリラックスしながら調査されたらどうですか、と言いたいですね。 反面、ちょっと気になるのが調査官の態度です。ほとんどの真面目(過ぎる?)調査官の中に時々首を傾げたくなる様な調査官も混じっています。まあ大きな組織の国税庁ですし、色々な性格の方が調査官をやっているのですから仕方がないのでしょうが、でもちょっと考えてもらいたいですね。 税務署員は質問検査権という国税通則法に定められた国家権力により納税者に質問し検査する事が認められています。よって国家権力をバックに税務職員達は納税者に対して高圧的に出る事も多い様です。20歳代の税務署員が6~70歳代の会社経営者に強い口調で物を言っているのを見ると、やはりどうかと思ってしまいます。 ベテラン税理士さんの話によると、これでも最近は良くなったらしいですね。昔はヤーさんか刑事といった雰囲気の人も多かったらしく、それから見ると今はかなり柔らかムードになったらしいですね。それでも私も何度かは酷い態度のベテラン調査官に嫌な思いをさせられました。ソファにふんぞり返る様に腰を下ろして足を組み、社長に横柄な態度で話している某調査官の態度を見ると、「この人は職業を誤ったな」と思ってしまいます。 能ある鷹は爪を隠す・・・。強い国家権力を持ちながらも、それを全く表に出さないで穏やに納税者と接する事ができる調査官は素晴らしいですね。でもその様な調査官も間違いなくいるのですよ。 私は職業柄、色々な調査官と接しますが、調査対象者の企業に取っては調査自体が何年か十何年に一度といった頻度であり、よってどんな調査官がやって来るかは運次第です。良い調査官に当たるかどうかで受けるストレスが全然違ってきます。 |
可哀相な新米税務職員 |
税務調査に来る調査官は必ずしも一人ではありません。会社の規模が大きいとか調査項目が多いとかの理由で複数の調査官が来る場合もありますし、また納税者に威圧感を与えるためにわざわざ複数で調査に来る(無通知調査の場合が多い)という事も残念ですがあります。 その中でもかなり多いのは新人職員の研修を兼ねて行われる調査です。ベテラン調査官が新米の調査官を連れてきて、ベテランの行う調査の方法などを実地に学んでもらうといった意図で実施される調査です。 一度ですが嫌な経験をしました。 「どこを見てんだ!」 「何度同じ事を言わせる!」 「さっき教えただろ!」 「何やってんだ!」 こちらに向けられたものではないとはいえ、ベテラン調査官が新人職員を怒鳴りつけるのは立ち会う私に取っても嫌な怖ろしいものでした。 (正に大声で怒鳴っていました) まあベテラン調査官としては新人の調査を見ていて歯がゆくて仕方が無かったのでしょうが、でもわざわざ納税者と税理士の目の前でやらなくたっていいじゃない。 税務職員達も大変ですね。他人が書いた帳面を読み取って決算の適否や税務処理に問題はないかを判断する訳ですから、単なる知識だけではなく、相当な経験を積まなければできない仕事ですね。 このベテラン職員も先輩達から怒鳴られて育ったのかも知れませんが、でも果たしてそれで人が育つのでしょうかね。「アホ!、ボケッ!、カス!」と怒鳴っても若い人は萎縮するだけで伸びないでしょう。 |
どう考えても質問検査権の行使じゃないの? |
最初は平成18年でした。顧問先企業に税務署から封書が届き、中には以下の様な文章。 「申告内容についてのお尋ね」というタイトルに続き、「貴社の申告内容についてお伺いしたいので来る○月○日から○日の間に説明資料持参の上で税務署に出署せよ」といった内容。その下には「お伺いしたい事項」として「交際費の支出内容についてご説明願います」とありました。 翌年には別な税務署からも別な会社にほぼ同じフォーマットの文書が届きました。タイトル「申告内容についてのお尋ね」も同一で、「交際費が売上の伸びに比較して増加しているのでその理由を書いて送付せよ」といったもの。 平成20年に届いた文書は交際費ではなく「売上の増加からみて期末在庫の計上額が少ないからその理由を書いて送付せよ」というもので、いずれも税務署長の官印が捺されていて、担当者として法人税部門の統括官の名前が書かれていました。 文面を読んで解る通り、誰が見てもこの文書は税務署の質問検査権の行使(当時は国税通則法ではなく法人税法にその規定がありました)として行われたものでしょう。しかし質問検査権の行使をする場合は代理権限を持つ税理士に事前に連絡する義務があります。これらの文書は税理士には何一つ知らされないで直接会社に送付されたものでした。 私の抗議はまずはこの文書の法的根拠を示してもらいたいというものでした。もし質問検査権に基づくものでしたら税理士の代理権限を無視している訳ですからそれなりの対処が必要ですし、行政手続法に基づくものでしたら「この文書の責任者は○○税務署長です」といった文書発行責任者表示が必要となりますし更に文書番号も必要となるでしょう。 税務署側の返答は複数ありました。まず最初の税務署からの回答は、この文書は質問検査権の行使ではなく、特に法律に基づくものではない任意依頼文であり、文書番号や文書発行責任者表示については行政手続法第3条(適用除外)の第14号規定により文面記載を省略したものであるといった回答でした。更に翌年に別な税務署から受けた回答では、質問検査権の行使ではないといった部分は同じ結論で、行政手続法によるものではなく、よって法的に回答義務は無いといったものでした。 二つの税務署からの回答に共通しているのは質問検査権の行使ではないといったところです。しかし決算内容について説明を求め、更に総勘定元帳等の決算資料を持参の上で日時を指定して税務署に呼び出したり、或いは回答期限迄に文書提出を求めるといった事が質問検査権の行使ではなかったら何の権限で行ったものなのでしょうか。 官公庁が国民に文書、それも国民に出署や文書提出を求める様な文書を出す場合はそれなりの法的根拠が求められます。税務署側の言い分である「任意依頼文」或いは「法的に回答義務は無い」といった事は文書を読む限りどこからも読み取れませんし強制力のある文書としか読めません。この様な文書が届いたならば、ほとんどの会社は「御上には逆らえない」と何らかの対応をするでしょうね。 なおこの様な文書が届いたのは私の関与先だけではなく、周りの税理士さん達に聞いたところ、かなり広く行われているらしいです。 現場の第一線で働く税務署の調査官に聞いたところ、この様なやり方は以前から日常的に行われており、わざわざ調査に出向くまでも無いけどちょっと決算内容に疑問といった場合にこの様な文書照会を行うという話でした。そしてその結果、申告漏れ所得(増差所得)が出た、或いは出そうだと判断すれば税務調査事案に振り替えて1件完了とするというらしいです。調査官は当然に「質問検査権の行使」のつもりだったらしいですが、税務署の公式見解としては何故かこれを認めたくない様ですね。よほど税理士に事前に知らせるのが嫌なのでしょうね。 平成25年から施行された国税通則法上では、おそらくこの様なやり方は許されなくなるのだろうと思われますし、そう願いたいものです。 しかし決算の内容についての説明を求める文書が何故「質問検査権の行使」ではなく「任意依頼文」になるのか理解できませんね。だったら文書に「この文書は単なるアンケートです」とか「この文書に対する回答は任意です」くらいの事は記載すべきでしょう。回答期限まで指定して、税務署への出署まで求める文書に法的根拠が無いなんて、この国はホントに法治国家って言えるんでしょうかね?。 【一つ嘘をつくと最後まで嘘をつき通さなければならない?】 |
以上の調査事例ですが、ここでご紹介させていただいた
調査は全て国税通則法が改正になる前のものです。
新国税通則法の下での税務調査というのもいずれご紹介させていただく予定です。