税務調査について


その5
税務調査の具体的事例






ここでは、税務調査の際に調査官が具体的に
何を調査していくのかを一般例で紹介します
対応を検討する際のご参考になさってください



収入金額(売上)の調査 
 会社企業に入ってくる収益、つまり収入金額(売上金額)に計上漏れが無いかどうかの調査は税務調査で一番重要視される部分です。調査時間が100あるとすれば、6~70程度は売上の調査に費やされると言っても過言ではありません。

 もし仮に企業が少しでも税金を少なくしたいと悪意を以て考えた場合、売上を意図的に少なく計上するか、或いはコストである費用を多めに計上するかして所得を過少に計上するしか無い訳ですが、売上の過少計上は無限の可能性がありますし、課税庁とすれば売上金額に調査の力を集中するのは当たり前の事です。 
スポット取引、つまり毎月定期的に発生する取引ではなく、臨時に発生した売上等はちゃんと帳簿に記載してあるか?。
会社口座ではなく社長の個人口座で決済されている取引は無いか?

この点は調査官は必ずチェックしています。
会社の銀行口座だけではなく社長の個人口座の出入りはチェックされます。

期末に納品済みなのに売掛金に計上されていないもの、そして本来は調査対象年度で計上すべきべく売上が翌事業年度で計上されていないか?

どの年度であってもキチンと計上されているのならば別に構わない様な気になりますが、調査では翌期でちゃんと計上されているものであっても必ず是正項目になります。
年度を合わせれば国庫に入る税額は何ら変わらないのですが、調査官とすれば修正事項は全て自分の実績になるからです。
(調査官は「過少申告」という事実が欲しがっている訳です)
売上の計上漏れは消費税の課税判定(課税事業者判定や簡易課税制度の選択)にも直接結びついてきますので大変重大な結果をもたらします。
決算の際には更に細かく注意を払って誤りが指摘されないようにすべきです。 
最近、国税庁が重視しているのはネット取引です。
web上で発生する売上などが適正に計上されているかどうかは国税庁もかなり力を入れて調べている様で、国税庁や国税局などではネット取引のみを専門に調べている部署もあると聞きます。ネット上の預貯金などの出入りなどはかなり細かくチェックされていると思ってください。 




売上原価の調査(仕入や外注費等) 
 請求書・納品書等で売上原価の額を売上内容と照合します。
 売上原価は必ず売上と密接に連動をします。例えば飲食店が仕入れた食材は、それに見合う分だけの粗利益が無いと売上の付け落ちを疑われますし、土木工事業者が生コンを仕入て現場に搬入していれば、その現場は必ず売上に計上されているか在庫計上されているはずです。
 この様に売上と売上原価というのは必ず連動して計上されているはずですし、調査官は必ずこの連動を調べて双方が適正に決算されているかどうかをチェックする訳です。
 仮に企業が悪意を以て売上を誤魔化そうとしたところで、売上原価などを綿密に調べられればほぼ確実にバレるはずです。

 本来あるべき粗利益(売上から売上原価を差し引いたもの)が少ないと売上計上漏れを疑われるのは小売店でも製造業でも飲食店でも工務店でも同様です。
 課税庁は業種によっての平均的な粗利益を知っていますので、企業が申告している決算について粗利益が少ないと判断された場合には、まず売上の計上漏れを疑ってくる訳です。
つまり売上原価の調査は売上の計上漏れを調べる目的で行われる事が多い様です。

決算期末近くの取引は特に重点的に調べられます。
決算期末直近の取引は、もし売上になっていない場合には必ず在庫の額に直結しますから調査官は必ず調べるようです。
在庫の調査 
在庫表(棚卸表)より在庫数量と単価の確認

在庫は実際問題として会社が在庫を確認した日(つまり決算日)から最低でも数ヶ月も経った後になって調査に来たところで容易に調べられるものではありません。
よって多くは帳簿書類等によって調査をする事となります。
具体的には上に書いた様に決算期末日直近の仕入の納品書等から調べるのが一般的です。

法定償却方法(または税務署に事前に届け出た償却方法)によって計算されているか?

何の届出もしていない場合、法人税では最終仕入原価法により在庫を計算する事となっています。





 人件費と源泉税の調査
 出勤簿やタイムカード、社会保険関係の書類を調査しますが、これは従業員がちゃんと実在しているかどうかのチェックのためです。
 以前は実在しない従業員や、既に退職して存在しない従業員の名前やハンコを使って、架空の人件費を計上して税金を誤魔化していたというセコい企業も多かったらしく、今でもこの様な調査は行われている様です。
 しかしマイナンバー制度(何とヒドい制度ですが)も導入され、この様なインチキな方法で税金を誤魔化すのは難しいでしょうし税務調査が入ったらまずバレます。決してお勧めはできません。 
 アルバイトなどについても税務調査では実在をチェックします。
 短期間のアルバイトであっても、会社側でちゃんと住所氏名などをキチンと把握しておかないと、実際の支払があっても支払賃金を否認される事もあります。
 アルバイトなどへの賃金の支払を銀行振込にしているのならば支払事実はハッキリするのですが、現金支払などの時にはしっかり本人から自筆の受け取りでも貰っておいた方が間違いがありません。

 飲食店の調査などでよく学生アルバイトへの賃金支払が問題化します。
 住所もフルネームも知らないし、現金で給料を支払って今はもう辞めて居ないアルバイトへの賃金などは「支払事実を証する」事ができないという理由で否認される事もあります。
 調査が入る前に必ず「支払事実」に疑いがもたれないようにしておきましょう。
 支払事実が否認されなくても、「扶養控除申告書」が無いからと言って源泉所得税を乙欄で課税してきて高額な税金の決定をされる可能性もあります。

自筆で「扶養控除申告書」に住所・氏名・生年月日・所帯主名等を書いてもらうのが一番間違いがありません。
しかし僅か1~2日間程度のアルバイトにまでマイナンバーカードのコピーと保管を求めるマイナンバー法には、その運用に強い疑問を持っています。

現金で給料を支払っている場合には、少なくとも必ず従業員から領収のサイン程度はもらうようにしてください。 
役員やその役員の家族(個人事業者の場合は専従者)に対する人件費は適正か?

つまり仕事の内容から見て過大な支払ではないかという事を追求されます。
調査対象企業は同族会社が殆どのため、人件費の額も利益操作の一つとして厳しくチェックをしてきます。
役員給与は定期同額での支払も要件となっており、更に株主総会や取締役会での決議により適正に支払われているかについてもチェックされます。
 
源泉所得税の課税漏れは無いか?

パートやアルバイトも含め、給料の源泉徴収税額の適否を調査します。
また年末調整計算に誤りは無いか?のチェックも行われます


年末調整計算では、計算内容だけではなく保険料控除証明書等の添付書類の有無や計算誤りもチェックされます。
特に扶養控除申告書は、提出がされていないというだけで源泉税が一気に増加(乙欄課税される)する事から、調査の前には必ず従業員から適正に提出がされているかどうかの再確認を行う必要があります。
 
通勤手当の非課税限度額の調査を体験しました。
つまり通勤距離が数百メートルから数キロ程度オーバーしているからとの理由で、一人当たりにすれば僅か数千円程度の税金を新たに課税、それも課税の時効である目一杯の5年間も遡って課税をしようとした調査官と激しくやり合った体験をしました。
(税務調査実例集に掲載してあります)

以前は調査官もここまでセコい課税は行わなかったのですが、最近の調査のやり方は異常です。
調査官としてはノルマもあって増差である実績欲しさである事は理解できますが、でも税務行政がこれでは逆に納税者側からの反感を招くだけであり、逆に行政としてはマイナスになるのではと思います。
 
弁護士や税理士といった士業に支払った報酬料金に源泉税の課税漏れは無いか?

 弁護士さんや税理士さんに報酬を支払った場合、その1割は源泉所得税として別途納税をしなければならない事はご承知の通りです。
 この報酬料金の源泉税課税漏れがあった場合、例え支払相手である弁護士さんが既に自分で確定申告をして納税済みであっても、敢えて意味の無い課税処分をしてくる事がありました。
 この場合は調査対象者に一旦課税を行い、そしてその分は報酬を受け取っていた弁護士さん等から勝手に受け取ってくださいといったもので、面倒極まりない処理を行ってきます。
 これも調査官の実績欲しさからです。
 弁護士さんはその後で税務署に還付請求をする事となりますから、結局は税金が回り回って誰も損も得もせず、ただ調査官の実績作りだけという結果となるだけであって、国庫には何の得もありません。行政手続に要した費用と時間の分だけ国の損でしょう。
従業員寮の提供、或いは従業員達に提供する食事や各種祝い金等で源泉税の対象となるものはないか?

福利厚生の支払の中には、場合によっては源泉税の課税対象となる場合がありますので充分にご注意ください。 





交際費の調査 
 個人事業者の調査の場合などは、交際費はかなり税務調査でチェックが入るようです。つまり事業遂行上の必要がある支払なのかどうかを細かく聞かれますし、飲食代などは接待した相手の名前やその関係なども聞かれる事があります。
 何年も前に飲んだ相手の名前など覚えている方が異常なのであり、後で調査官に説明ができるように領収書などに接待相手の名前などをメモしておくのが無難でしょう。

個人事業者の調査(所得税の調査)では、仮に支払事実に問題が無くても、その支払の事業上の必要性をチェックして生活費だと認定をして(「家事関連費」と呼ばれます)、なるべく経費を否認して所得を増やそうとしますから、事業上必要な支払である事を疑われない様にしておく必要があります。 
 法人税の調査では、現在では中小企業については以前の様な交際費の損金不算入規定の適用範囲が極めて縮小された事から、交際費に関する調査は減っているようです。
 法人税には個人事業者に対する所得税の調査の様な「家事関連費」といった考え方は無いのですが、でも役員の個人的な支払を交際費として支払いしていた場合には、役員への賞与と認定をされて法人税と源泉税のダブルパンチの課税を受ける可能性もあります。 
その他の経費の調査 
経費の支払いは適切なものか?

 役員個人が支払うべき諸費用を会社の費用として落としていた場合には、上の交際費の項目で記載したのと同様に役員賞与と認定されて法人税と源泉税の課税を受ける危険性がありますので充分にご注意をお願いいたします。

一時的な損金ではなく、本来は資産計上すべき支払が含まれていないか?

 もし単品で10万円以上の資産の購入があった場合には、この支払は減価償却資産、或いは一括償却資産として資産計上を行う必要がある可能性があります。
 調査官は費用処理してある10万円を超える支払はチェックをする様です。
 また多額の修繕費についても資産計上の可能性を疑われます。

この期で処理すべき支払なのかどうか?

 本来は翌期以降の費用となるものを、この期で支払って費用処理をしているかどうか確認します。 
 調査の一番の基本は、ちゃんと領収書や請求書といった証憑類が保存されているかどうかといった部分に尽きます。
 取引先の関係者の不幸の際に香典を持って行ったという場合には、領収書の代わりにその挨拶状を保存しておけば支払事実の証明になりますし、逆にお祝い金などについてもその案内状などで支払の立証は可能です。
 自販機などで購入した飲料など、もう最初から領収書なんて出るはずの無い費用については出金伝票等で立証しましょう。
 とにかく税務調査では、全ての支払についてその支払事実を疑われるものと思って臨んでいただいた方が良いです。 





 消費税の調査
 最近の調査で一番厳しい判断で課税してくるのが消費税の調査です。特に仕入控除要件に厳しい判断をしてくる様であり、納税者とのトラブルも色々起きています。

 元々消費税法という法律は、我々税務で働く専門家の中でも欠陥法だと言われています。
 そもそも制定のいきさつからして正にごり押し的なものでしたし、平成9年に仕入控除要件が厳しくなった以降は、仕入控除を全く認めない等という滅茶苦茶な課税を行ったという調査も全国的に頻発している様です。

 課税庁側は仕入控除要件を法律の趣旨よりも更に厳しく自己解釈をして税務調査を有利に展開しようとしている感じです。
 
課税庁は税務調査時に、民主商工会等の課税庁が認めない第三者の立ち会いがあった場合には、目の前にある帳簿を全く見る事もしないで、そして「帳簿が存在しなかった」として支払った消費税を全額否認してくる事があります。
そもそも消費税の申告というのは、受け取った消費税から支払った消費税を差し引いて差額を国庫に納めるというものであり、受け取ったのみを計算に入れ、支払った消費税の控除を認めないのでは、どんな企業でも多額の納税額で倒産してしまうのは当たり前であり、課税庁は企業に納税不可能な高額な税額を課税するといった脅しを使って有利に調査を行っているとも言えます。

カードで支払ったものについて、カード利用明細書の保存だけでは消費税の仕入控除を認めないという言われた事が最近の調査で何度かありました。カード払いをした際に受け取る領収書等も全て保存しておかないダメとの事ですが、とにかく最近の税務調査では消費税仕入控除に関してかなり高圧的になっている感じです。
簡易課税選択者については、事業区分の適否について必ず調査されます。
もし簡易課税の事業区分に相違があった場合には、税務調査で追徴課税される消費税の額は馬鹿にはなりません。
事業区分の判断は慎重の上にも慎重に行う必要があります。
また事業区分が複数ある場合、それらの事業が帳簿上キチンと明確に区分経理されていないと判断された場合、消費税は全て納税額の高い方で計算されますので注意してください。
税務署等の課税庁側はよく消費税を「預り金」だと主張してきます。
「預り金」すなわち消費者から預かった税金だからちゃんと国庫に納めるのが義務である、といった主張で、言われてみれば確かになるほどと思う方も多いようです。

しかし厳密に言えば消費税は全く「預り金」的な要素はありません。
課税庁側が「預り金」でもない消費税を敢えて「預り金」だと事実をねじ曲げて主張する理由は、消費税の強権的な課税に対する納税者側からの不満の言い訳であり、更に税金の滞納のほとんどが消費税である事から言わせる詭弁に過ぎません。

   消費税は預り金ではありません!

「預り金」とは、例を挙げれば源泉所得税の様な税金です。
納税義務者は給料を貰っている従業員個人。
会社は従業員から税金を天引きして代わりに国庫に納める「源泉徴収義務者」。
これならば「預り金」で,間違いがありません。


一方消費税ですが、
納税義務者は課税事業者となっている企業または事業者。
消費者は企業から物またはサービスの提供を受ける際に売上代金に「消費税相当額」をプラスして企業に支払う。
「消費税相当額」を売上にプラスするかしないかは企業の自由。
企業は納めるべき消費税を法人税や所得税と同じように自己で計算をして申告の上で国庫に納税をする。


どう考えても消費税には「預り金」的な要素はありません。
課税庁側は国民に事実相違の嘘をついて消費税の強行的な課税の言い訳にしています。 
消費税法を法律通りに厳格に適用されましたら、日本の中小企業のほとんどは経営が成り立たなくなるとも言われています。それほどに消費税法は悪法だと言えます。
印紙税の調査 
契約書等をチェックして印紙の貼付漏れ、または消印の漏れは無いか?

建設会社や不動産業者等、契約書の作成を日常的に行っている業者は概ね印紙税の調査も行われている様です。
契約書の印紙は数万円といった単位のため、貼付漏れがあった場合はかなりの高額な追徴金となります。
また、印紙が貼ってあっても、消印が漏れていた場合には貼付漏れと同様に取り扱われますのでご注意ください。
調査で指摘された場合は、本来の印紙額の1割増しの税金、下手すれば3倍もの税額を支払う事となります。

課税文書の判定に誤りは無いか?

課税文書は1号文書から20号文書に分類されております。その文書の性格によって貼付すべき印紙の額も変わり、その判定はかなり複雑です。 
 その他参考事項
調査はだいたい売上面からスタートするのが一般的な様ですが、調査官によっては最初から支払を見たり、また在庫や人件費から入る場合もあります。調査官のやり方によって様々だと言えます。

消費税や源泉税の調査は最後に行われることが多いようです。

調査日数というのは限られており、よって全ての調査が必ずしも印紙税まで行われるという事がありません。むしろ印紙税の調査が行われるという事はまれです。しかし契約文書が多い建設業や不動産売買業者などは最初から印紙税だけを目的に調査に来る場合もあります。

別な項で記載した通り、調査官は限られた調査日数の中で1件でも多くの調査件数を処理しなければならず、よって調査のスタート時点で早々と修正事項が発見された場合、それ以降の調査が一部省略される事もあり得ます。修正事項の発見という、税務調査の重要目的が果たされる保証があった以上、以降の調査が甘くなってしますのは調査官も人間である以上は当然でしょう。
 





相続税の調査
 上に書きました税務調査の具体例ですが、法人税や所得税といった税目についての調査についてご紹介させていただいたところです。
 そして税務調査の中では相続税や贈与税の調査というものも頻繁に行われており、これらは通常「資産税」関係の調査と言われております。
 調査のやり方も法人税や所得税の調査とはかなり違っております。
 相続税の調査は被相続人(つまりお亡くなりになった方)の財産を調べる訳ですから、会社の調査の様に帳簿などに数値で記載されたものを調べる訳ではありません。お亡くなりになった時点(相続開始日と言います)の財産を金銭に換算していくらであるかを評価するものですから、法人税や所得税などの調査の様に帳簿に載った明確な金額で計算されるものではなく、そのため評価計算では課税庁と納税者側との争点となることも多くなります。
 財産の評価は昭和39年(?)に国税庁が制定した「財産評価基本通達」によるところが大きく、現在でも法律でもないこの単なる「通達」で相続時の評価額を計算するのが一般的という状況です。
 本来ならば税金計算の際の一番基礎的な額である評価額を算定するのには、ちゃんとした租税法規定によるのが当然なのでしょうが、これを今は単なる通達規定だけで済ませている訳であり、これは租税法律主義・課税要件法定主義を規定した憲法上からも問題視されています。
 かなりの数の学者達が法制化を提言していると聞きますが、残念ながらまだ実現はしていません。法治国家としてやはり租税法での明確な規定を望むところです。
基本的な相続税の調査

 被相続人(お亡くなりになった方)の預貯金は必ず最低5年間は遡って調査をされますし場合によっては相続人や家族の預貯金も全て調べられます。そして入出金を細かく調べられて相続財産の漏れが無いかどうかをチェックされることとなります。特に大きな額の現金での出金については行き先を聞かれると思いますので事前に調べておく必要があります。 
相続財産(不動産)について

 土地や家屋といった不動産は、課税庁も登記資料を事前に確認していますので、あまり申告漏れというのは無いようですが、未登記物件や先代からの分割未了財産などが申告漏れとなっている可能性もありますのでご注意が必要です。

 申告をしてある不動産であっても、今度は評価計算が妥当かどうかがチェックされます。土地などはその形状や立地によって評価額は変わりますので、税務調査で課税庁と争点となることが多い部分です。課税庁は税務調査に来る前に、よほど遠隔地でない限りは事前に相続財産の不動産を実地に確認してから来ているはずです。

 調査時に再計測をする場合もあります。土地の縦横の長さなどは調査時でも相続開始時でも計測する時期によって変わることは無いのですが、例えば農地の深さを計測するなど、明らかに実施する日によって違いがあるものであっても調査時に計測をすることがあります。そして課税庁の都合の良い数値で計算されることもありますのでご注意ください。

 面積の大きな土地(広大地)の評価は、その規定の内容に曖昧な部分も多く、課税庁と納税者との間のトラブルの原因でした。なお平成30年以降はこの規定もかなり明確化することとなっていますが、評価減のメリットは縮小している様です。

 不動産については登記簿・固定資産税通知書・名寄帳・更に賃貸物件でしたら賃貸契約書等も全て確認されますので、調査当日に慌てて探す様なことが無いようにご準備をお願いいたします。
預貯金・金融資産について

 預貯金などは相続開始日(お亡くなりになった日)時点での残高は明確であり、評価のトラブルはあまりありません。金利の安い今は、余程多額の預貯金が無い限り、あまり未収利息のことを言われることは無いようですが、本来は預貯金残プラス未収利息が申告すべき預貯金の額となります。

 課税庁は相続開始日時点の預金残高をチェックするだけではなく、上にも書きました様に通常は最低でも5年程度は遡って預金の入出金を調べます。これは別なところに財産を隠していないかどうかを調べるためであり、大きな出金はどこに流れたかを調べます。投資信託や株式といった金融資産の存在もこの様な預金チェックで表に出てきます。

 もしこの出金が相続人に対して支払われたものと認定された場合には贈与税も課税されることとなります。相続税の調査では必ず贈与税をセットにして調査が行われ、相続人に対する過去の贈与事実もしっかりこの時点で調べられることとなります。

 金融資産の申告漏れは最近多いらしく、課税庁もかなり重点的に調べるようです。 
保険について

 死亡保険金は民法上の相続財産ではありませんが「みなし相続財産」ということで相続税の対象となります。しかし死亡保険金は金額も大きいこともあり、また法定相続人の数に乗じた控除額もあることから、保険金を相続税の申告時に失念するといったことはあまり無いとは聞きます。

 税務調査で問題となるのは、受け取った「保険金」ではなく支払った「保険料」の方が調査官の興味を惹く様です。例えば過去5年間程度の預金の出金をチェックしている中で、もし家族の保険料を被相続人の口座から振替支払していた様な事実があったら、これは相続財産とみなされて(死亡日以前3年間の贈与は相続財産とみなされます)相続税の対象とされるか、或いは贈与税の対象となる可能性があります。保険料は月々の支払額は大きいものではありませんが、数年間分を計算されるとかなりの額にもなりますので注意が必要です。

 親が子供や孫の保険料などを支払うことは、可能性として多いと思われますので、税務調査の際には事前にチェックをしておいた方が良いでしょう。保険証券なども確認されますので事前にご用意ください。 
生前贈与と贈与税

 調査官は上に書いた様に預貯金からの出金は必ずチェックしますので、もし説明の付かない出金は生前贈与を疑われる可能性があります。必ずご自身で通帳をチェックして通常の生活費程度の引き出し以上の多額な出金は説明(資産の購入や学費・家の修理等々)が付くようにしてください。

 特に意識をして生前贈与などしていなくても、この様に預貯金を調べられる過程で相続人に対して金銭が支払われているといったことはかなり指摘される様です。上に書いた保険料の支払なども生前贈与扱いとなります。もし預貯金から、通常の生活費等の日常的な出金より多額な引き出しがあった場合には必ずチェックする様にしましょう。

 生前贈与となった場合には、死亡日以前三年間分については相続財産として相続税の対象となりますし、それ以前のものは贈与税の対象となります。そのため相続税の調査の場合には必ずセットで贈与税も調べられることとなります。

 もし贈与税を申告していなかった場合は6年遡って申告提出を求められます。法人税や所得税・法人税といった他の税金の時効が5年なのに対して贈与税は更に遡及課税がされるということです。 
海外にある資産も申告対象です

最近、課税庁が特に調査に重点を置いているのは海外資産です。海外にある資産は、不動産や預貯金・株式・保険・信託財産等々も含めて課税庁もかなり力を入れて資料を集めておりますし、納税者から国外所有財産の支払調書提出義務もありますので、いくら海外資産だからといって課税庁のチェックから漏れることはまずありません。相続税の対象となる資産は国内財産だけではなく海外にある全ての資産が対象です。 
とにかく法人税や所得税の調査とは違い、相続税の調査はかなりプライベートな部分まで質問をされる可能性があります。相続税の申告書には被相続人(お亡くなりになった方)の出生前から死亡に至るまでの全期間の戸籍記録が添付してありますし、調査の過程で不愉快な質問、つまり非嫡出子や正規の婚姻関係では無い方の件での質問等がされる場合もあり得ます。 また遺産分割で揉めた場合などの相続人間でのトラブルも起こりますし、正に人生の縮図が調査の場でも繰り広げられることもあります。







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