税務調査について


7 税務調査の実態





マスコミ発表で申告漏れ企業割合が多い訳 
平成27年11月
国税庁「平成26事務年度法人税等の調査事績の概要」 によると、

  26事務年度に於ける法人税の実地調査件数 95千件
  うち、非違があった件数 70千件(うち、不正計算があった件数は19千件)
  申告漏れ所得金額 8,232億円(うち、不正所得は2,547億円)
  調査による追徴税額 1,707億円
  調査1件当たりの申告漏れ所得金額 8,655千円
  調査1件当たりの追徴税額 1,795千円

法人の消費税の実地調査については、
  実地調査件数 91千件
  非違件数 52千件(うち、不正件数 14千件)
  調査による追徴税額 452億円(うち、不正不正による追徴は118億円)
  調査1件当たりの追徴税額 494千円 
どこの世界の話かと思いますが、これは国税庁のホームページから抜粋した数字です。
この数字の内容はマスコミにも広く広報されており、皆様も新聞記事等で企業の申告漏れ件数や申告漏れ所得の多さに驚かれた事もあるのではないでしょうか。

この内容を要約すれば、税務調査を行った場合には、何と7割を超える法人から非違事項が発見され、しかもそのうちの3割弱は不正計算、つまり重加算税が賦課される様な悪質なケースが発見されるという内容です。
そして法人1件当たり800万円を超える申告漏れを指摘され、それに伴い180万円もの法人税を追徴されるという訳です。
消費税も6割弱は非違を指摘され、法人1件当たり50万円弱を追徴課税されるとなると、税務調査に入られたら法人税と消費税を合わせて230万円は追徴されるのが平均値だという事になります。

企業の経営者は改めて税務調査に対しての恐怖感が増しますし、企業の経営者以外の方でしたら脱税企業に対して怒りを感ずる方も少なくないのではないでしょうか。。
それにしても気になるのは企業の申告漏れの多さ・・・。
調査を受けたら7割を超える企業が申告漏れが指摘されるなんて、収入をほぼ100%捕捉されているサラリーマン層から見れば実に不公平で面白くない結果でしょう。
よくクロヨンとかトーゴーサンとか、サラリーマン層と自営業者との所得捕捉率の差の不公平さについて言われております。
確かに国税庁の発表が事実だったら、所得を100%捕捉されて高い税を取られているサラリーマンの方々には我慢できない事でしょう。
しかし第一戦の現場でナマの税務調査に立ち会っている筆者から見れば、企業の7割が所得を誤魔化して税金を過少に申告しているなんてあり得ない事です。
確かに中には意図的に所得を少なめにしたりしている企業も存在しましたが、割合的には僅かなものです。
7割以上に申告漏れ所得があり、そしてその中の3割に不正、つまり重加算税の対象となる所得の「ごまかし」があった等とは実態とは掛け離れたものに感じます。
実際には「お土産」による修正申告がかなりあります
「お土産」とは、本来は明確な申告漏れでも何でもなく、修正の必要の無いものについて調査官の実績(ノルマ)や旅費も考えて、若干の申告漏れを認めるということで追加の納税を行って税務調査を終了させるといったものです。
特に元税務署の幹部だったOB税理士などが立ち会った場合に、「円満に調査を終了」といった理由で企業に意味の無い税負担を了承させる事も多いのが現状です。
確かに調査官から見れば、本来は修正事項無し(申告是認)なのに、修正申告書の提出によって調査を終結できるのですから助かります。

税務調査の目的は、本来は「適正申告をしているかどうかの確認」のはずなのですが、いつのまにか「追加の納税をさせる」事に変わってきており、担当調査官に取って修正事項無し(申告是認)は自己の調査能力を疑われる屈辱的な事なのです。

税務署内の研修会などでは、頻繁に改正が繰り返される税法やその取り扱いなどの研修よりも 調査技術の向上を目的としたものが多く、「私は如何に多額の申告漏れを見付けたか」等の研修会(と言うよりも自慢話に近い)が繰り返し行われていると聞きます。
そんな中で調査結果が出なかった「申告是認」という調査結果は調査官に取って最悪の結果だと言えましょう。

事実、調査結果を上司に報告する際、結果が「申告是認」だと、調査のやり方が悪い、と一方的に決めつけられる若い調査官も多く、税務調査では企業は「必ず脱税をしているはず」であり、もしそれが発見で きない場合は「調査能力無し」という完全な性悪説に基づいて行われています。

つまり、
  有能な職員=申告漏れ所得(増差所得)を見付ける職員
  無能な職員=申告是認が多い職員
    という事らしいです

よって「申告是認」を避けたい調査官と、昔の職場である税務署に対して「貸し」を作っておきたいOB税理士との間で合意が得られると、この「お土産」の税金追加負担が生まれる訳です。 
 調査を終わらせるために敢えて修正申告書を提出
また、「お土産」の他にも企業・税理士側が修正申告書の提出に応ずる場合があります。

つまり 課税の判断が白黒付かない、謂わば「グレーゾーン」の判断を行う場合、幾つかのグレーゾーン問題を取りまとめて、その中の一部の部分だけで修正するといったもので、具体的に書けば、例えば売上と在庫・経費の3点について税務上の問題点が見付かり、そのいずれもが課税要件が白でも黒でもないグレーゾーンだった場合、調査官と協議した上で売上についてのみ税務署の指摘通り修正し、その代わりに在庫や経費には目をつぶりましょうというものです。

税務調査が入った場合、全く何も問題点が出ないという事は実際にはほとんど無く、最低一つか二つは問題点の指摘がされる事があります。
その様な場合、企業に取ってあまり負担にならない程度の税金を納税する事で調査を終結する事も多くあります。
これも一種の「お土産」であり、少なくとも「申告是認」ではない形で調査を終える事となります

企業としても、「調査がこれで終わるのならば・・・」といった感覚で、「少々の税金ならば・・・」と修正申告書の提出に応じてしまう訳ですが、本来の姿は税務官庁は調査結果に基づいて更正決定処分を行い、企業側はこの処分について不服がある場合は不服申立をするというものであり(別項参照)、この様に安易に修正申告書を提出することで調査を決着させるということは、本来は課税要件ではないものが課税されてしまうという、誤った行政が行われてしまう危険があります。
自主的に追加課税案を提案して調査を終わらせる事も・・・
良いことに最近は滅多にいなくなりましたが、以前は税金の追徴課税事実を確認するまで調査を終了させない調査官もいたらしいです。
早く調査を終わらせてもらいたい企業側とすれば、自主的に追加の課税案を提案してようやく調査を終わらせてもらったという話もあります。 
統計上は全て「申告漏れ」の発見
この様な「お土産」による修正申告であっても、国税庁の統計上は「○○%に申告漏れが見付かり・・・」の分子を構成する数字の一つとして計算され、申告漏れ企業の割合を増やす結果として現れます。

「お土産」による修正申告は決して少ない数値ではありません。納税者側が、調査の結果について安易に妥協して修正申告書を提出する姿勢を取らず、本来の姿である更正決定通知書で課税を受けるといった姿勢を取れば、「申告漏れ企業」の割合は大きく下がるに違いありません。

よって国税庁の公表数値については、実際はかなり歪められたものであることを認識した上で 読む必要があります。
企業の実際の申告漏れ割合はもっと少ないはずであり、つまりほとんどの企業は真面目に申告し納税している訳です

調査官が調査に来たら、必ず何らかの税金を持って行く、との話はよく耳にしますが、 残念ながらかなりの確率で事実だと言えます。
とにかくゼロで済む割合は統計上3割に満たない訳ですから、調査が入った場合は7割は追徴金を取られる可能性があるという事です。
申告漏れ企業を「悪」として報道するメリット 
何故、国税庁はこの様な歪めた統計数字を発表するのでしょう。
収入を100%捕捉されていると税の不公平感に不満を募らせているサラリーマン層から見れば、企業の申告漏れ率の多さは驚きよりも怒りを感じるのが普通でしょうし、この様な発表はサラリーマン層と企業との間で相互不信を招くだけではないかと思います。

全企業に占める中小企業の割合は総務省の「事業所・企業統計調査」によれば99.7%となっています。
つまり企業のほとんどは中小企業であり、更にその中小企業の大多数は中小零細企業と呼ばれる、従業員数人といった、家族経営に毛が生えた程度の小さな企業が占めております。
極めて一部の企業を除けば、ほとんどの企業はサラリーマン層と何ら変わらず重税に喘いでいるといったのが実態です。

この国税庁の統計発表によって、少なくともサラリーマン層の税の怒りの鉾先が企業側に集まる事は間違いありません。
また国税庁は「預り金」でもない消費税を敢えて「預り金のようなもの」と称して、消費税をきちんと払わない(今は消費税は滞納税金のかなりの比重を占めています)企業をさぞかし国民の敵か何かの様に扱っていますが、筆者に言わせれば消費税が滞納になるのは税の構造や法律・仕組み自体に問題があると思っております。

税の不平不満というのは本来は国に向けられるものです。
しかし国税庁の広報により、少なくとも企業側を「悪人」か何かの様に扱うことで、本来は国に向けられるべき不満の一部が別方向に向けられている事は間違いないようです。 





申告漏れ割合は調査官のテクニックも原因の一つ 
申告是認を如何に減らすか
申告是認とは、税務調査を行っても何の問題点も見つからず、つまり企業側が行っていた申告書は何ら問題が無い「是認」だったという事です。
しかし調査官に取って「申告是認」という結果は悪夢に近いものです。
よって調査官は追徴金を見込んでいた企業が是認で終わった場合は、何とかしてその事実を隠そうとする事があります。
これは、
申告是認件数が多いという事は、調査官として無能と決めつけられる、つまり調査が下手だと思われる(つまり人事評価上のマイナスポイント)からです。

一年間の事務計画では、何故か年間の申告是認の予定件数が前もって前年度実績等から決められているらしく、その予定件数を上回る場合はそれなりの理由付けを上部機関、つまり税務署の調査ならば国税局に対してしないといけないなどという理由によるもので、そのために調査官はテクニックを使って申告是認件数(割合)を偽装する場合があるらしいです。
このテクニックとは、申告是認となった調査、或いは申告是認になりそうな調査については最初から
調査しなかった事にする
というもので、つまり調査事実そのものを無くすることで申告是認件数ばかりか調査件数からも外れます。
申告是認割合も、分母と分子からその調査事実が外れる事で実体よりも低くなる訳です。
ただこのテクニックは、一年中調査件数の消化に追われる調査官に取っては至難の業です。つまり着手した調査そのものを無かった事にする訳ですから、年間調査件数が厳しく決められている調査官に取ったら、改めてその分の調査を新たに行わなければならない訳であり、日常的に使える業ではありません。

特に数日間も調査した挙げ句に是認という結果になった場合は、さすがにこの調査事実を無かった事にはできません。
調査に着手してすぐだったら、まだ調査に投下した日数が少ないという事で他の事案に切り替える事も可能なのですが、数日間も調査に費やした挙げ句に是認となった場合はもうどうしようもない訳です。


一例を挙げます
    企業Aの調査 ・・・・・・ 修正申告書提出で決着 
             (調査投下日数4日はカウントされる)

    企業Bの調査 ・・・・・・ 申告是認で終了
             (調査投下日数4日はカウントされる)

    企業Cの調査 ・・・・・・ 申告是認になったため打ち切る
            ( 調査投下日数2日は宙に浮く)

    企業Dの調査 
        ・・・・・・ 2日間で調査を終えても企業Cの分の
               投下日数を加えて4日の日数となる


平均調査日数は4~5日間程度として年間の調査件数が決められています。
よって申告是認で浮いた日数は仕事をしないで遊んでいた日数と同じ様に扱われますので、別な事案の調査日数に振り替えて帳尻を合わせる必要があります

上司が新米調査官に指示する事に
「できるだけ早く見極めること」
というのがあります。

つまり申告是認になりそうな事案は、できるだけ深入りせずに早めに打ち切って別な事案を調査せよ、という指示であり、つまり
【申告是認件数を如何に減らすか】
は調査官個人個人ではなく課税庁全体の方針になっています。
税務調査の事前通知での電話応答ですが、
税務署 「先生の関与先の○○商事さんに調査に行きたいのですが・・・」
税理士 「もうですか?、2年前に調査されたばかりですが・・・」
税務署 「え?、もう十年以上調査に行っていないはずですがね」
税理士 「間違いなく2年前に××さんという調査官が一日だけ調査していきましたけど」


これは決してフィクションではなく実際に頻繁に起こっていた事実です。
周りの税理士さんからも幾つか似た話を聞いておりますので、やはりこの様なことは日常茶飯事にあった様です。
調査した場合の調査記録はしっかり課税庁内に残されているはずなのですが、調査そのものの事実を無かった事とした場合、記録も全て破棄される場合もあり、この様に調査されたのに調査歴が残っていないという状況が生まれる訳です。

最近、つまり国税通則法で税務調査手続が法律でしっかり規定されて以降は少なくともこの様な事はやりづらくなったのでしょうが、でも完全に無くなったかどうかは未確認です。
 この様に税務調査の実態はかなり生々しいものです。

マスコミ等に発表される統計数値はあくまで
課税庁側が
発表資料として厚化粧をした後
のものであり、
実際の数値とはかなり食い違っている
ものであることを知っておく必要があります。





税務調査は修正申告書の提出で終わる 
 修正申告書の法的性格とは?
調査官に提出する様に言われて仕方なく提出したものであっても、あくまで法律的には納税者が勝手に提出したものであり、仮に課税内容に誤り等があったところで、行政庁はその責を負う事は無い、というものです。

つまりもし課税要件ではないものを課税と認めて修正申告書を提出してしまった場合でも、それは納税者が勝手に提出したものであるとの理由で課税庁は何ら責任を負わず、支払ってしまった税金を取り戻す事は難しいという事になります。

税務署等の課税庁側が納税者に修正申告書の提出をさせる事によって調査を終わらせたい理由は、後々の面倒もなく、また何か問題があっても責任を取る必要が無いからです。
税務調査で問題点を指摘された場合(申告是認ではなかった場合です)、税務調査はほとんどの場合、修正申告書を提出して追加納税額を納めることで終了します

改めて記載しますが、修正申告書というのは
納税者側が自主的に自分の誤りを認めて提出する
という性格のもので、調査結果に基づいて修正申告書を提出するということは、
税務署から指摘された問題点の全てを認めた上で
自主的に自分の申告書を訂正するというものです。 
修正申告書というのは上にも書いた様に「納税者が自主的に提出してきたもの」という性格のものであり、税務署の指示で提出されたものであってもあくまで納税者の自主的な提出だったという考え方です。

つまり修正申告書に誤りが、つまり本来は課税要件に当たらないものが課税として申告されていても、税務署側は「自主的に課税と判断したもの」として、その税金の還付には容易に応じてくれませんし、還付してもらうにはかなり高いハードルを乗り越えなければならない事となりますす。

税務署から見た場合、納税者側に問題点の指摘事項を全て認めさせて修正申告書を提出してもらうことで調査を終了する事は、後々の面倒が全く無く理想的な終結と言えます。
仮に事実関係や課税要件に少々曖昧でグレーな部分があっても、納税者側がそれを認めて修正申告書を提出した時点でそれらの問題は全て決着済みとなってしまうからです。
修正申告書を提出した後で、それらの曖昧かつグレーな問題点について争っても相手にもされません。 
申告書が間違っていた事を指摘しても
「だってあなたが納得して申告書に押印したんでしょ?」
と言われるだけです。
調査官に指示されたから、といくら言い訳しても通用しません。

よって税務調査は申告是認の場合を除いてはほとんどは
「修正申告書の提出」
という形で調査を終結します。

仮に納税者側が修正申告書の提出に躊躇して、本来の法律通りの課税を望んでも、税務署側は様々な圧力を掛けたり、また一部で納税者の主張を認めたりして、要するに
アメとムチを使って
何とか修正申告書を提出させようとします。 
 <法律上の税務調査の終結とは>

納税者は更正決定処分を受ける迄は修正申告書を提出する権利がある

<でも実際には>
課税庁は納税者に強く圧力をかけ、アメとムチを使ってでも何とか修正申告書を提出させようとする
つまり法的には調査は更正決定という形で終結するのが原則です。
(課税庁は納税者に対し修正申告書の提出を慫慂する事ができるだけです)

もし課税庁が納税者からの修正申告書の提出を受けないで更正決定で課税を行おうとする場合は、その後々の不服申立(別項参照)に備えて事実関係や課税要件の曖昧なグレーゾーン部分等を全てしっかりと調査して課税事実を立証せねばならず、調査件数消化を至上命題とする課税庁側に取っては頭の痛い問題です。
課税庁側とすれば、納税者側が一切の不服申立権を放棄した修正申告書による調査決着が何よりもありがたい話なのです。
もし更正決定で課税する様な調査をやろうとしたら、調査時間がかかってとてもこんな調査件数消化は不可能!

(これが調査官の正直な本音なのです)





修正申告書を提出させるためのアメとムチ作戦 
修正申告書の提出に応じない場合、上にも記載した様に課税庁側は様々な手段で修正申告書の提出を求めてきます。
その主なものは以下の様なものでしょうか。
あまり重要ではない部分の修正事項について無かった事にするから残りの部分については税務署の主張に沿って修正申告書の提出をお願いしたい。

5年間遡って課税するところを3年分だけにするから修正申告書を提出してほしい。

本来は重加算税を賦課するところを過少申告加算税だけにするから。

不服申立をすると手間も時間もかかる上に税金に利息(延滞税)も加算されるから修正申告で決着した方が貴社のためですと言って修正申告書の提出を求める。

本当は青色申告の承認を取り消すことになるが、修正申告書さえ提出してくれれば取り消し処分は行わない。
筆者も税理士として税務調査の立会件数は三桁はありますから、この様な駆け引きの話は何度も経験しております。
結論から言いますとそれほど気になさらなくて良いかと思います。

5年間遡るところを3年間だけとするとか、或いは重加算税賦課の件などは、本来は調査担当者が決める事ではなく税務署長の判断によるものです。
よって調査官との間でいくら口約束をしたところで税務署長が認めなければ意味を成しませんし、所詮は修正申告書を提出させるための口実に過ぎません。

不服申立をすると時間が掛かるのは事実です。
追徴税金には延滞税という利息も加算される事も事実なのですが、でも修正申告書を提出しても延滞税はしっかり加算されますし、修正申告書さえ出せば全て丸く収まるといったものではありません。
もし修正申告書を提出せずに敢えて更正決定処分という賦課決定を受ける場合には、税金だけは先に無理をしてでも一旦納税をした上で不服申立で争うのがベターです。
課税処分の争いに勝てば一旦納税した税金は利息付きで戻ってきます。

青色申告の取り消しを駆け引きに使う調査官もかなりいます。 
「どうぞ取り消してください」と言えば困るのは調査官の方です。
青色申告の取り消し処分というのは課税庁に取ってもかなりハードルが高く、取り消す理由を全て課税庁側で立証した上で理由文を書かなければならない事となり、忙しい調査官達に取っては面倒極まりない手続が必要となります。
もし本当に青色申告の取消処分に該当する様な企業だったら、調査官個人の判断の余地など無いままに処分が行われます。
調査官段階で「取り消しを行わないから」などと言っているということは、そもそも取消処分となる様な事実は無いと思って間違いがないでしょう。 
要するに、税務調査のほとんどは修正申告書を提出する事で初めて終わります。

修正申告書を提出するということは、税務署の指摘事項に対して、
調査官の御指摘通り追加の税金を支払いますし、今後この件について一切の不服の申し立てを行いません
という念書を入れるのと同じ事だということを良く認識する必要があります。
何度も同じ事を繰り返す様ですが、
 修正申告書への押印は慎重に!
           ということです。
法人組織の企業の場合は、ほとんどが税理士さんの関与もあって修正申告について相談する機会もありますが、個人企業で税理士さんの関与が無い場合などは、調査官が修正申告書の数値を全て記載した上で納税者には署名押印のみを求める場合があります。
そんな場合であっても、絶対にその場では署名押印には応じず、最低1~2晩は良く考え、出来れば税理士さんなどによく相談した上で提出する様にしてください





増差所得は遡及年数で稼げ 
先に記載しました通り、税務調査というのは、原則は直近年度分から3年(期)分を対象に行われ、稀に5年(期)遡って申告漏れについての修正申告書の提出と追加の納税を求められる訳です。

但し例外として、「偽りその他不正の行為により税額を免れた」といった事実があったと認められた時には、その3~5期(年)分という規定が7期(年)分に延長されます。
(国税通則法第70条)

要約すれば、調査官が一つの申告漏れという事実を「偽り」または「不正」が原因と認定した場合は、調査の対象年分が一気に7期(年)分となり、つまり7年も前の申告漏れについてまで税金の追徴が行われる事となります。
このことは絶えず増差所得という実績ノルマを抱えている調査官に取っては、安易に数値を稼ぐ事のできる、実に美味しい手段の一つとなります。 
例えばある会社が毎期100万円の所得の申告漏れを指摘された場合を想定します。

○ 単純な申告漏れと調査官が判断した場合
  (最大5期分の遡及ができますが一般的には3期分の課税が多いようです)

   申告漏れ所得3期分で300万円
   仮に税率40%とすれば120万円の追徴金
   過少申告加算税が12万円
   延滞税(利息的な税金)が3年分ではなく1年分だけ計算されます

○ 偽りその他不正行為だと判断した場合
  (7期分遡及課税を行います)

   申告漏れ所得は7期分で700万円
   税率40%として280万円が追加で課税される
   重加算税が約100万円
   延滞税も7年分丸々計算されます

この税額差は延滞税を無視しても250万円にもなります。
調査官の一つの判断だけでこれだけの税額の差が出てしまう訳です。

上記計算はかなり簡略化しており、実際にはもう少し複雑な計算となります
つまり、調査官に取っては、少しでも申告漏れの理由を「偽り」や「不正」と認定してしまえば増差所得という「実績」を一気に稼ぐ事もでき、調査を行った成果としては充分に満足できる結果になります。
そのために調査官は一つの事実を全て悪い方に悪い方に解釈する傾向があります。

「偽り」「不正」といった事実認定の有無だけで追徴できる税金にこれだけの差がある訳ですから、実績ノルマに追われている調査官に取ったら無意識のうちに悪い方に解釈してしまうのはある面では仕方がない事かも知れません。

増差所得を稼ぐには遡及年分(年度)数を増やすのが一番の早道。
法的には3~5期(年)しか遡及できなくても、申告漏れの原因を「偽り」や「不正」と判断してしまえば一気に増差所得を稼ぐことができます。
また重加算税の賦課事実も実績の一つとなりますから一石二鳥です。

重加算税も7年遡及課税も、実際にはどちらも調査官の判断ではなく賦課決定権のある税務署長の判断によるものです。
しかし税務署長は担当調査官の報告のみを聞いて課税の決断をする訳であり、納税者の意見などは全く聞く機会などありませんから、嫌でも課税結果は担当調査官の方針通りとなってしまうのは仕方がありません。
7年遡及する課税は明らかに違法 
元々は「偽り」や「不正」事実があった場合の調査遡及年数(課税の時効です)は5年でした。
それが昭和56年の法律改正で7年に延びた訳ですが、これは特に政治家絡みの贈収賄事件等で課税が時効の壁に阻まれた事などがあって課税の時効が延長されたものです。

つまり5年が7年に延びた理由は、悪質な政治屋(家ではない)に対する課税強化や超大口の脱税事件を取り締まるための趣旨で改正されたものであり、その面では我々納税者は悪質な一部の犯罪的脱法行為の取り締まりに期待したものです。

しかしこの改正には不安もありました。つまり本来は大口脱税事件を取り締まるべき趣旨だったこの法改正が中小零細企業の調査にまで適用された場合、これはとんでもない税の負担増になります。

よってこの法改正には中小零細企業に適用したりする乱用を避ける意味で下記の付帯決議が行われました。 
 第94回国会・参議院大蔵委員会の付帯決議
(昭和56年5月15日)

1 原則として高額悪質な脱税者に限る
2 いたずらに対象範囲を拡大する事の無いよう
3 中小企業者に無用の混乱を生ずる事の無いよう
            以上の特段の配慮をすること

    詳細は    
残念ながらこの付帯決議は現状では全く生かされていません。
付帯決議を読む限り、7年分も遡って課税されるのは、マルサ、つまり高額悪質な犯罪的な脱税を取り締まる国税局の査察部が行う様な調査に限って適用されるはずなのですが、現状では税務署でごく普通に行われている税務調査でも適用されています。

事実、全国的に零細企業の僅かな申告漏れに7年課税が行われている等々の実例があり、中には日当で働く日雇いの建築労務者に7年間の所得税と重加算税が課せられたといった酷い例もあります。

確かに過少申告をしていたという事実については弁解のしようもありませんし反省すべきなのでしょうが、この程度の過少申告についてまで7年間の課税を行うという事が法の趣旨なのかどうかというと疑問を感じます。

新聞誌上などのマスコミに時々大企業や著名人の脱税・申告漏れの報道がされる事があります。この様な数億円単位の脱税(最近では数十億円という単位もあります)という事件であっても、7年分遡った課税が行われている事例はその中のごく一部です。
脱税額が多額になった場合、その証拠固め等にはかなりの課税庁側の時間と労力が必要な事から、この様な大口脱税事件では7年分丸々課税を行うのは難しい様です。
 つまり7年間の課税は法律制定の趣旨に反して
零細企業の調査に広く適用
され、
調査官の増差所得を稼ぐために
取りやすいところから適用
されていると言えます。




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